建物の性能規定型の耐震設計を高度に実現するには,建物損傷と関連の深い建物変形を適切に推定することが欠かせず,それには各構成部材の高精度な降伏変形評価が必要である。鉄筋コンクリート造柱部材については,静的載荷実験において部材の詳細な変形・ひずみ分布を計測した研究に基づき同高精度評価が可能になりつつあるが,柱部材と同じく変形性能が期待される連層耐震壁については,その脚部への変形集中メカニズムについて統一的理解は得られておらず,精度良い評価手法は確立されていない。 そのため本研究では,同変形集中メカニズムが接合部全体の回転変形であるとの仮定のもと,接合部内および近傍のひずみ・変形分布を詳細に計測・分析する計画とし,本年度は,一年度目に設計・計画した二体(柱型のせん断補強筋量をパラメータとした)の縮小試験体の静的載荷実験について,試験体製作,計測準備,載荷実験実施,実験データの分析を実施した。 両試験体は変形角1/300程度で引張側壁柱の主筋降伏が生じ,その後せん断補強筋比が小さい試験体は変形角1/50サイクル経験後,大きい試験体は変形角1/40サイクル経験後に,それぞれ変形角1/50程度でせん断補強筋の降伏と共に耐力低下を開始した。赤外線カメラにより得られた試験体の詳細な変形分布と,スタブ内部(すなわち接合部内部)の主筋に貼付したひずみゲージのデータより,斜めひび割れ進展とその本数の増大と共に壁脚部近傍の曲率が古典理論解よりも増大し,それに伴いスタブ内部の変形も増大し,結果として脚部に変形が集中することを定量的に確認した。
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