建造物や屋外文化財の多くはその材料内部に微細な空隙構造を有する多孔質材料であり、その空隙内には水や塩などの物質が出入りする。材料中の物質量やエネルギー量は熱や物質の移動に伴い変化しそ、れに応じた応力が材料実質部に加わる。このとき材料中の水は材料実質部を膨張あるいは収縮させるような力を生じるため、多孔質材料は乾燥と湿潤を繰り返すことで変形や破壊が生じる。本研究では多孔質材料中の水分状態とそれにより発生する応力の関係を明らかにすることを最終的な目標とし、乾湿繰り返し時における内圧の発生メカニズムを明らかにすることを目的とした。 本研究では、内圧の発生メカニズムとして、①多孔質材料中の水分による毛管圧、②多孔質材料中に存在する塩分の結晶化による圧力の2点に着目した。 ①を対象とした実験では、凝灰岩の吸湿あるいは吸水過程におけるひずみ挙動の計測を行い、材料のひずみ挙動が材料の含水率、周辺の相対湿度、気液平衡状態を仮定した際の毛管圧のいずれに比例するか検討を行った。結果として、吸湿時におけるひずみは含水率あるいは毛管圧ではなく相対湿度に比例するという結果を得た。 ②を対象とした実験では、塩を含ませた凝灰岩の吸湿あるいは吸水過程におけるひずみ挙動の計測を行い、そのひずみ挙動の計測を行った。なお、材料に含ませた塩は硫酸ナトリウムであり、硫酸ナトリウムは無水和物であるThenarditeから十水和物であるMirabiliteへと変化する過程で応力が発生することが知られている。結果として、塩を含むことで材料のひずみは大幅に増加すること、吸水時のひずみ挙動は吸水量に依存し、吸水量とひずみ量は非線形的な関係にある可能性を示した。また、硫酸ナトリウムの相変化に伴う応力については文献調査含め、そのメカニズムについての究明を行った。
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