研究課題/領域番号 |
21K14313
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
似内 遼一 東京大学, 工学系研究科, 助教 (90795999)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高齢社会 / まちづくり / エイジング・イン・プレイス / 居住環境 |
研究実績の概要 |
今年度は、東日本大震災をきっかけに進められたプレイス・メイキング・フォー・エイジングの実態を明らかにした。本調査からは、住民にとって、仮暮らし期は単に災害によって失われたものを再生する期間ではなく、住宅復興後の地域での暮らし方について、様々な学びを得る期間でもあった。そして、そこで学んだことは、自己成長として受け入れられ、現在の住生活に生かされし、プレイス・メイキングの実践に活用されていた。 もう一つ重要な点は、プレイス・メイキングにはアセットベースで支援を行う必要がある点を発見した。災害直後は、様々なものが失われ、足りないもの、すなわちニーズを補う支援が求められる。例えば、住宅を失った者には政府が仮設住宅を供与し、社会参加の場を失った者にはボランティアが仮設集会所でその場を提供することなどである。しかし、本研究では、仮設集会所に来ていた人が現在の居住地では集会所や公民館に来なくなった背景には、ニーズを補う支援が途絶えたことが関係したことが指摘された。 こうした「支援依存」の状態から脱却するには、ニーズベースの支援からアセットベースの支援に切り替えていく必要があった。仮暮らし期の支援の仕組みや制度はなくなっても、その時期に形成された意識や活動資源、商業店舗内の居場所が地域社会に埋め込まれ、あるいは埋もれていたものを再発掘し、現在の社会活動に活かされていることが観察された。そうした意識や活動資源、居場所はアセットとなり、現在の地域づくりの基盤として機能し始めている。しかし、全ての重要な意識やアセットが支援によって掘り起こされ、現在の地域づくりに活かされてもいない。調査では、住民の熱意の低下が見られたり、語り部の活動を形成する機会を逸したり、震災前に存在したインフォーマルな情報の場の喪失が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は新型コロナウィルスに感染し、その後の後遺症により、予定していた3箇所で調査を思うように進めることができませんでした。さらに、延期した調査を予定していた時期(12月ー2月)に近い血縁で相次いで不幸があり、調査を実行することができませんでした。
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今後の研究の推進方策 |
現在、プレイス・メイキング・フォー・エイジングの取り組みが進む、鎌倉市の郊外住宅地および近江八幡市の老蘇学区を取り扱い、取り組みの経過を整理する。特に、市が中心となって進める近江八幡市と、住民有志が進める鎌倉市での場所づくりの進め方の違いを明らかにし、プレイス・メイキングに必要なエンパワメントの評価を行う。 また、住民の意識や活動資源が活かされるには、戦略的なコミュニティ施策の展開が重要であり、その作り方が求められている。今年度の調査をもとに、居住地におけるコミュニティ施設の戦略的な配置が重要であり、なるべく多くの住民のアクセスを確保する必要がある。また、そのコミュニティ施設の利便性を担保する仕組みの導入を戦略的に展開することも重要な示唆となった。大槌町では、指定管理者制度の導入によってその利便性の改善を図っている。さらに、コミュニティ施設以外の場での支援との接続性を担保する仕組みの導入も戦略的に展開することも重要と考える。これらのコミュニティ施策の展開をどのようにプランニングしていくのかを明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に調査に行けなかった分が残りました。 今年度の使用計画としては、調査の旅費として使用します。
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