本研究では、見せかけの意匠技法の分析という従来にはない新しい手法で住宅系建築を中心に日本建築を文献調査および現地調査し、見せかけ技法が用いられる箇所や形状を明らかにしていくことを目的としている。さらに見せかけ技法がなぜ用いられたのか、意匠的に何を意図しているのかを考察することで、従来とは異なる新たな意匠観を見出す。今年度は具体的には以下の研究実績があった。 1 文献調査…庫裏の報告書を元に、全体像を確認し、基礎から屋根(基礎石、柱、土台、胴差、軒、等)まで、分類ができた。例えば、基礎石は、表面だけまっすぐにしているが、裏面は自然石のままの事例があった。土台は、外からみえるところだけつくり、他は省略する事例があった。桁は正面だけ太い材とし、背面は細い桁とする例があった。組物については、舟肘木を正面側のみにつける事例があった。梁の小口は表に出ないように、非常によくこだわっていることもわかり、中国や韓国で梁の小口を見せる事例とは好対照である。以上のように、各部位で、様々な見せかけの技法が確認された。 2 現地調査…近畿圏の住宅系建築の調査を中心に行った。建仁寺方丈、大徳寺方丈、善導寺庫裏、妙法院庫裏などである。特に、妙法院庫裏修理現場での実測を行い、見せかけの部材や逆に見せかけない部材を多数発見した。また、方丈や庫裏に限らず、見せかけ技法の見いだせる可能性がある建物についても、視察を行い、研究の発展可能性を検討した。
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