研究課題
2023年度は、前年度から開始していた検証用の大気圧燃焼実験の実験条件の検討を完了した。北海道大学との共同研究という枠組みで、10月に同大学札幌キャンパスにて、センサ応答検証用として固体燃料に熱電対を埋め込むことのできるエンジンを製作し、燃焼実験を行った。大気圧燃焼実験を実施し、予め予期したセンサ電圧履歴と類似の電圧履歴を示した期待されるセンサ応答が生じた。その時刻とほぼ同時に、埋め込んだ熱電対でも、燃焼面への露出を示唆する、急激な温度上昇が生じた。これによって、センサ不具合の原因は、高燃焼圧と燃焼熱が組み合わせて作用し、センサ内部構造を含むシステムに何等かの影響を与える、という原因に絞り込まれた。加えて3月にも、高温高圧環境の影響の低減を目指したセンサつき固体燃料セグメントを用いて追加の大気圧燃焼実験を、九州工業大学戸畑キャンパスにて実施した。この固体燃料セグメントには、センサ部がセグメント断面から意図せず加熱されうることを防ぐ設計改良を施した。また、すでに概念実証済みの矩形固体燃料に適用したものと類似のセンサ形状を採用した。本実験の結果は、報告執筆時点では、詳細な解析中である。副次的な成果としては、酸化剤流旋回型ハイブリッドロケットの燃料後退速度特性が、比較的大きな圧力依存性を示しうることを発見ことが挙げられる。さらにセンサ構造の表面露出状態による、電磁波ノイズの影響の違いなどを取得することができた。また、2023年5月には、火薬学会の英文誌に、センサつき固体燃料の燃焼可視化観察についての査読論文が1編採択・掲載となった。更に、2023年9月には、本研究で適用しているセンサつき固体燃料が登録となった。2024年1月には、JAXA相模原キャンパスで開催された、2023年度宇宙輸送シンポジウムにて、当時の成果を対外発表した。
4: 遅れている
円筒形状エンジンで発生した燃料後退センサ構造の不具合は研究構想時には想定外であり、その不具合解決に時間を割いているため、研究が遅延している。加えて、本年度は研究代表者が在外研究で海外に長期滞在しており、日本での実地活動ができないことから、昨年度に引き続き、本年度も、学位論文テーマとする大学院学生が本課題の実地作業を実施している。このため、研究代表者による現場監督が実施できず、本年度は北海道大学にて実験を実施した。研究代表者は実験実施検討のミーティングへの参加や、制御プログラムの製作などで実験全体をリードしたものの、研究代表者の現場での迅速なトラブルシュートや指導が不可能であり、計画が遅延した結果、当初計画の実験回数を大きく下回り、実験条件も計画から大きく外れたものとなった。更に、研究対象のエンジンは、大気圧燃焼では高圧燃焼時より大幅に低い想定外の後退速度であったため、本来想定した実験条件での実験遂行は困難となった。研究代表者が一時帰国した3月の戸畑キャンパスでの実験では、これらの低燃料後退速度を反映した改良型の固体燃料での実験を実施し、結果の解析中であるが、計画は前年度より更に遅延している。
次年度は、研究代表者は半年間日本で活動するため、研究の進捗は先の2年度よりも大幅に改善することが期待できる。具体的な推進方策としては、改良型センサつき固体燃料セグメントの設計改良を更に進めるとともに、センサ部のみを分離して矩形燃料と同様の手法で造形することで造形精度を改善し、大気圧燃焼で矩形燃焼器と同等の電圧信号履歴の取得を達成する。更に、これを高圧燃焼実験でのセンサつき固体燃料セグメントの初期設計として適用する。高圧燃焼実験を通して設計のトライ&エラーを重ね、動作を実証する。
前述の理由から、実験回数を重ねられず、固体燃料・ノズル・熱防御剤などの消耗品費に未使用額が生じた。次年度の実験では、未使用額はこれらの消耗品購入に充てるとともに、実験補助学生の国内学会への出席・発表に関する費用に使用する。
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Science and Technology of Energetic Materials
巻: 84 ページ: 24-31
10.34571/stem.84.2_24