研究課題
本研究では任意の海域の表層流をオンデマンドに把握することを目的として、海洋表層ドリフターの大規模展開による沿岸流動場の把握手法を検討している。初年度はドリフターの浮体形状、テレメトリを含むセンサ、電源、オンボード解析プログラムの検討を行い、平塚総合海洋実験場にて開発したプロトタイプの試験を実施した。テレメトリについては携帯回線等の利用も当初検討していたが、海域によっては通信環境が十分良好でない可能性があるため、任意の海域の表層流をオンデマンドに把握するという本研究の目的を遂行するために全球が通信可能対象であるIridium SBDを選択した。また、電源についてはリチウムイオン電池とソーラーパネルを組み合わせることで長期の観測を実現可能とした。搭載するセンサについては漂流位置を特定するためのGPSセンサに加えて、漂流に影響すると考えられる波浪情報の取得を目的に慣性計測装置(IMU)も搭載することとした。オンボード解析プログラムでは緯度経度のみならず波浪統計量の推定を行うものとした。センサと電池は100mmx100mmx65mmの水密筐体に内蔵し、ソーラーパネルを搭載した直径20cm弱の球形に近い形状の浮体に搭載し、ドリフターの浮体部分とした。また、ドローグと呼ばれる没水抵抗体は既存の海洋表層ドリフターを参考に伸縮可能で展開時は円筒状となる形状とした。作成した表層ドリフターを市販の小型表層ドリフターであるCARTHE Drifterと市販の波浪ブイであるSpotterと共に平塚総合海洋実験場にて漂流試験を行った。また、作成した表層ドリフターについてはドローグの影響を考察するためドローグの有無で2つの基体にて実施した。得られたデータからCARTHE DrifterとSpotterと漂流軌跡ならびに波浪統計量を比較し良好な一致を確認した。
2: おおむね順調に進展している
海洋表層ドリフターの海洋観測機器としての側面は大きく浮体・ドローグの形状、テレメトリ含むセンサ、電源、オンボード解析プログラムと考えられるが、初年度においてこれらの開発には目処が立ったものと考えられる。一方で、初年度には水槽漂流性能試験の実施も計画していたが、こちらは実海域試験による問題点の明確化を優先したため、初年度では実施していない。そのため、「おおむね順調に進展している」とした。
初年度に小型かつ可搬性の高い海洋表層ドリフターの機器開発については進んだため、次年度における主な課題は漂流性能の明確化と実海域における試験・他点展開、得られたデータから流動場の構造を把握する手法の開発である。漂流性能の明確化については、風、波、流れそれぞれを調節できる東京大学生産技術研究所の風洞付き波浪海流水槽において実験を行い、実海域試験では厳密な切り分けが難しいと考えられる風、波、流れの影響を定量的に考察する。加えて、複数回の試験を平塚総合海洋実験場にて実施し、多様な気象海象下におけるデータを取得する。流動場の構造を把握する手法の開発については、ドリフターの投入機会としては所属研究室で予定している北極航海を活用することを予定している。限られた観測機械となるため、相模湾などでの試験を実施した上で展開に臨む予定である。
世界的な半導体不足により使用するセンサの納品に予定より時間を要しており、次年度使用額が生じている。次年度に同センサの購入に使用する。
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Geosciences
巻: 12 ページ: 0
10.3390/geosciences12030110