本研究では、犯罪予測研究で疎かにされてきた時間の側面に着目し、犯罪の発生する季節、曜日、時間帯などに関する詳細な予測手法の開発に取り組んでいる。 本年度は最終年度として、①特定の日にちに固有かつ先んじて把握可能な時間変数(連休やハロウィンといった特別日、また曜日、天候、催事など)からの効果、②犯罪企図者・集団が活発化することによる変動(①で予測される水準を大きく上回る増加をこれとみなす)をそれぞれ捉え、それらを統合して高リスク地区での犯罪発生時期予測を試みた。具体的には、社会経済的・物理構造的要因をもとに地理的なクラスタリング(空間的に隣接しない地区同士が同クラスタにならないよう制約をかけた)を行った後、そのクラスタごとに上記時間変数によって、日ごとの犯罪発生件数をマルチレベル負の二項回帰で推定した(実際には2018年のデータで回帰モデルを作成し、2019年のデータに外挿した)。次に、カルマンフィルタを用いて、2018年における発生件数実測値と予測値のそれぞれをフィルタリングし、推定されたトレンド同士を比較、実測値トレンドが予測値トレンドの2倍を超える時点を異常値とみなした。最後に、回帰分析による予測値と異常検知による結果をあわせて、クラスタごとに36日分を要警戒日として選んだ。 予測性能テストにあたっては、ともに先進国の中で犯罪低頻度にある日本と韓国の都市部を対象とし、日本(大阪市)では財産犯罪となる車上狙い・部品狙いについて、韓国(ソウル市)では公的空間での暴力、公然わいせつ・不同意わいせつ・不同意性交等についてそれぞれ予測を行った。結果として、両国ともにランダムに要警戒日を選ぶモデルや、既存の機械学習手法を用いたモデルを提案モデルが上回ったが、その傾向は犯罪発生頻度がより高い韓国で顕著であった。また、韓国では単純な暴力よりも、性的な犯罪での予測性能が高かった。
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