最終年度では,滑り分布をランダムに変化させた地震断層から計算した津波浸水深分布をモード分解することで,確率論的浸水評価を効率化することが可能か検討した,まず南海トラフ地震断層の滑り分布をランダムに配置したGoda et al.(2016)による津波波源を用いた.モーメントマグニチュード(以下,Mw)6ケース,各100個の断層を生成し,非線形長波理論により津波浸水深分布(計600ケース)を得た.これら多数の浸水深の面的分布を考慮した場合,想定地震断層の数を削減可能か検討するため,断層数を50個,20個,10個と変更して得られた浸水分布に対してモード分解により浸水分布を多数再生成し,元の浸水分布と比較した.結果,断層数を20個にしても,元の100個の計算とほぼ変わらない結果を得られ,計算数を5分の1程度に減少できる可能性を示せた.更に沿岸の防潮堤を想定し,選別した各Mw・20個の浸水分布と防潮堤破壊の不確定性を考慮した浸水分布を評価した.具体的には,非線形長波理論から得られた浸水分布に対して,モード分解で多数の浸水分布を再生成する際,防潮堤高さ0m~10mまでの確率密度を設定した.地震発生確率として非定常なBPT分布を適用し1年毎に地震の発生可否を判定するMCSを実施し,確率論的に浸水分布を評価した.結果,例えば今後50年で浸水深が1m以上になる確率の平面分布の解析結果等が得られた. 本研究2年間を通して,複数の不確定性を考慮した多数の浸水深分布を特異値分解によりモード分解することで,計算負荷の高い確率論的浸水評価を効率的に,かつ,精度良く解析できる手法を提案した.考慮した不確定性の種類についても,従来から検討されている地震断層の各種パラメータの変化だけではなく,防潮堤の破壊確率という陸域で考慮すべき不確定性も含んだ解析結果も示すことができたことは有用な成果であると考えられる.
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