本研究課題では、Ti-Ni基合金を対象としマルテンサイト変態前に生じるCommensurate-Incommensurate(C-IC)転移の本質とマルテンサイト変態の熱力学的特性(構造相転移温度やエントロピー変化)を明らかにすることを目的とする。 Ti-Ni基合金の単結晶試料は、ブリッジマン法により育成した。この単結晶を電子線マイクロアナライザー(EPMA)により組成分析したところNiが高濃度である事が判明した。初めに中間相転移を調査するために最適なNi組成の探索を行なった。熱処理によりNi組成を調整した単結晶試料に対して示差走査熱量測定(DSC)や電気抵抗測定によりマルテンサイト変態挙動の調査を行い、中間相の存在する温度や組成範囲を明らかにした。これにより中間相転移の存在による各種特性への評価に適する合金組成の決定を行った。さらに<001>、<011>、<111>方位に対して機械特性を評価した結果、<011>方向のヤング率がT=230 K付近で急激に変化することを明らかにした。この温度域では中間相転移が存在していることが熱分析などの結果から明らかとなっており、ヤング率の急激な変化の起源であると推測している。 中間相転移の存在する単結晶試料に対して超音波測定を行った。今回の測定は室温から4Kまで温度を変化させ測定を行った。この測定により中間相転移の存在する温度領域において、内部摩擦にヒステリシスの小さいピークが観察され、さらに温度が低下しマルテンサイト変態が生じる温度領域でピークが発散する結果が得られた。このヒステリシスは1-2 K程度と非常に小さく、中間相転移は1次の相転移であると考えられる。また非弾性X線散乱測定により弾性定数(C44)の温度変化を測定したが、中間相転移の存在する温度域においてC44の特異な変化は観察できなかった。
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