研究課題
本研究課題では、強相関電子系における定常流下非平衡状態の開拓を大きな目標として研究を進めた。過冷却状態が報告されている物質を起点に定常流下非平衡状態を探索するという方向で進めていた。その上で、より基礎的な観点から既報物質における準安定性の起源を探る必要があると考え、低温ヒステリシス拡大を示す物質群に注目した。以下で述べるように、今年度は、ヒステリシス領域に埋もれた熱平衡相転移線の決定及び低温ヒステリシス拡大の起源の二つを明らかにした。まず、一般にヒステリシスを大きく伴う一次相転移では熱力学的な平衡相転移点で物理量に異常が現れないため、特に低温でヒステリシス領域が拡大する物質では温度-外場平面上での熱平衡相転移線が不明確になるという問題があった。そこで、ZnドープFe2Mo3O8におけるエントロピーと磁化を正確に測定した後、クラウジウス・クラペイロンの式を忠実に適用することで、ヒステリシス領域に埋もれた熱平衡相転移線を決定した。次に、温度-磁場平面上での低温ヒステリシス領域拡大の起源を調べた。昨年度は、反強磁性相とフェリ磁性相が相競合している物質ZnドープFe2Mo3O8を対象とし、ヒステリシス領域の境界が磁気ドメインの成長過程と相関していることを見出した。今年度は、磁気光学カー効果顕微鏡(MOKE)を用いて、よりヒステリシス領域の境界に近接した領域での成長過程の観測に成功した。磁気力顕微鏡とMOKE測定の結果からドメイン成長速度がMerz則と呼ばれる式によく従うことがわかった。Merz則に基づいて等温磁化曲線やその掃引速度依存性を計算し、低温でのヒステリシス領域の拡大は磁気ドメインの熱活性的な成長に由来すると結論付けた。なお、今年度は上記の研究と並行してCuIr2S4という物質に関して、微小デバイスを作製し、電流誘起相の有無を調べたが、目的の非平衡電子相は観測できなかった。
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Scientific Reports
巻: 13 ページ: 1-11
10.1038/s41598-023-33816-6
Physical Review B
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