研究課題/領域番号 |
21K14400
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷村 洋 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70804087)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 相変化材料 / 共鳴結合 / 時間分解分光法 / 超高速現象 |
研究実績の概要 |
DVDやBlu-rayディスクなどの記録面に用いられている相変化材料の動作原理は、材料の結晶層のみに存在する共鳴結合に起因している。申請者は、共鳴結合は原子配列に極めて敏感に応答し、温度上昇による原子の熱振動振幅の増加によっても誘電率が大きく減少する事を見出した。このことは原子変位を伴う結晶構造相転移が生じた際、大きな光学特性の変化が発生し得る事を示している。本研究では岩塩型構造を母構造とし、歪みのある構造へ相転移する材料を対象として、その光誘起相転移挙動の研究を行い光学特性の変化を研究することを目的とする。上記の共鳴結合の特徴により、本研究結果は従来の結晶-アモルファス相転移を経ず、より高速な結晶-結晶相転移で動作する相変化材料の実現へと展開されることが見込まれる。 PbTe,及びSnTeは室温で立方晶を有する共鳴結合結晶であるが,両物質ともPbおよびSnのサイトにGeを添加することにより,室温で菱面体晶を取ることが知られている.21年度の研究において,これらの物質の多結晶バルク試料,および薄膜試料の作成を行い,その光学特性の温度依存性についての調査を行った. Geを添加したPbTe(PGT)の薄膜試料の透過率の温度依存性を測定したところ,試料温度の上昇に伴って一度透過率が減少した後,増加していくという振る舞いが観測された.これは,過去にPbTeに置いて観察された,試料温度の増加に伴う透過率の単調な増加とは異なっている.観察された透過率の減少は,PGTの結晶構造の変化が光学特性の変化として観測されたものとして考えられ,本研究のmotivationであった共鳴結合結晶の構造変化による光学特性の制御が可能であることを強く支持する結果であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のmotivationであった,共鳴結合結晶の構造変化によるものと考えられる光学特性の変化を観察することができており,また組成の異なる薄膜試料作成方法に関しても,21年度の研究でおよそ把握することができており,より詳細な結晶構造変化に関する知見を得るのに必要なバルク試料に関しても,石英管への真空封入を利用した固相法により,Geの添加量の異なる試料の作成を完了している. 本研究の核心的な部分である超短パルスレーザー照射による結晶構造変化の有無についてはまだ詳細な知見が得られていないが,測定試料の作成はおよそ完了しており,早急に測定可能な状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,より純粋な試料の作成を試みるとともに,温度可変X線回折測定による相転移温度の厳密な決定を行う.相転移に伴う物性変化に関しても,透過率のみならず,ホール効果測定装置を用いたキャリア濃度の変化,あるいは温度可変分光エリプソメーターを用いた光学特性の温度依存性に関しても測定を行う.その上で,フェムト秒レーザーを用いた時間分解分光測定を行い,光励起による光学特性の超高速変化を観測することにより,レーザー照射による結晶構造の変化が生じうるか,どの程度高速な時間オーダーでそれが生じるかについての知見を得る.
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次年度使用額が生じた理由 |
本来,21年度には,共鳴結合結晶の相転移に伴う物性変化を観測するため,物質の伝導度やキャリア密度を観測可能なホール効果測定装置を購入する予定であった.しかしながら,本研究とは別の研究予算によってホール効果測定装置が購入可能となり,価格の都合上そちらの予算を使用して購入を行ったため,当初計画していた予算に残額が生じた. 22年度に繰り越しを行った予算に関しては,研究室所有の時間分解分光装置の光学系を改良するための光学素子の購入,およびより幅広い組成を有する試料作成のための,合金スパッタリングターゲットの購入費用などに充てることを計画する.
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