本研究課題採択前からデータ科学や機械学習を材料科学に応用する研究は広く流行しており、また第一原理計算による大規模データベースが公開され機械学習の様々な手法がテストされていた。特にベイズ最適化のようなblack-box optimizationの手法は原理的には自律的な材料探索を可能にするが、一方で理論計算と機械学習を組み合わせた大規模かつ実践的な材料探索は一般的に普及されているとは言い難い状況であった。その原因として(1)複数の物性値を同時に考慮する手法が一般的でないこと(2)ハイスループット計算の技術が複雑であること、の2点があると申請者は考えた。 本研究ではまず、物性値が一定の範囲内に収まるような物質の探索を機械学習により自律的に行う手法を開発した。研究室内のデータベースで性能テストを行った結果、極端な範囲を指定しない限り、ベイズ最適化よりも本手法の性能が優れていることを示した。また本手法は複数の物性値が関わる基準(例えば、形成エネルギーが一定以下かつバンドギャップが一定範囲にある物質など)を考慮して探索する場合にも適用可能である。この成果は論文化されており、STAM: Methodsに2022年4月に掲載されている。 さらにハイスループット計算技術を組み合わせることで、自律的に材料探索を行うシステムを開発した。high-k誘電体探索を想定したテストを行い、ランダムな計算を行うよりも実時間で約5倍速く目標物質を同定できることを示した。この成果については現在論文を投稿中である。またシステムに使用したコードは公開する予定である。 本研究で開発した材料スクリーニング手法及びソフトウェアは様々な物質群・物性値に適用可能であり、半導体・誘電体に限らず材料探索に幅広く応用されることが期待される。
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