本研究ではマルテンサイト変態過程において発生する転位を抑制し,形状記憶合金の耐用寿命を向上させる材料設計原理を示すことを目的とし実施された.研究当初は母相からマルテンサイト変態によりマルテンサイト相の形成がある程度進んだマルテンサイト変態後期過程において成長してきたマルテンサイトバリアント同士が衝突する結晶界面において転位が発生することを予測していたが,組織観察により転位は個々のバリアント周囲に発生することが示唆された.そのため応力集中箇所を明確にし転位の発生メカニズムを詳細に理解するためにマイクロメカニクスを用いて個々のマルテンサイトバリアント周囲に発生する応力場の解析を実施した.βチタン形状記憶合金のα''マルテンサイト相における解析では応力場はマルテンサイトバリアント形成時の変態ひずみに関連する格子定数だけでなく,母相とマルテンサイト相の弾性率に大きく依存することが示唆された.最終年度ではより組織形成過程と発生した転位についてより詳細な研究が多数報告されているTiNi形状記憶合金のB19'マルテンサイト相を対象とし,相変態により発生する転位と内部応力の関係についてマイクロメカニクスにより調査した.実際に観察された転位のすべり系と転位形成時の弾性相互エネルギー解析の結果から,相変態時に発生する転位はマルテンサイトバリアント形成時に発生する弾性ひずみエネルギーを最も効率的に解消するすべり系であることが分かった.また対応するすべり系に対応する分解せん断応力を小さくし転位の発生を抑制するためには母相とマルテンサイト相の弾性異方性の差を小さくすることが効果的であることが示唆された.
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