研究課題/領域番号 |
21K14448
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研究機関 | 地方独立行政法人京都市産業技術研究所 |
研究代表者 |
塩見 昌平 地方独立行政法人京都市産業技術研究所, 京都市産業技術研究所, 主席研究員 (10745194)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 金属ナノ粒子 / 欠陥 / 電気化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、液相還元法で合成される金属ナノ粒子、特にCuナノ粒子において、溶液中でのナノ粒子の核生成、成長挙動が欠陥の導入に及ぼす影響について電気化学的な観点から考察し、析出プロセスと導入される欠陥との相関を明らかにすることで、従来、ナノ粒子に対して行われてきた形態やサイズのコントロールだけでなく、格子欠陥を積極的に利用した物性の制御を可能とし、ナノ粒子の産業上の利用範囲の拡大に寄与する基盤技術を確立する。 本年度は,浴中の不純物がCuナノ粒子の析出プロセスにどのような影響を及ぼすかをより詳細に調べるため、比較的結晶性の高いナノ粒子を合成できる還元剤であるヒドラジンを用いたナノ粒子合成浴に対し意図的に不純物を添加していった際のナノ粒子析出挙動および還元剤の酸化活性の変化を電気化学的に評価した。その結果、不純物添加によりナノ粒子の析出速度は低下する一方、還元剤の酸化活性は向上することが分かった。一見相反する結果であるが、これは、析出物が欠陥を多く含む結晶性の乏しい金属ナノ粒子であるため、Cuの酸化還元電位が熱力学的に予想されるよりも卑になることを反映していると考えられ、欠陥を含んだナノ粒子ついての酸化還元挙動を考察する際に、従来の電気化学理論を準安定な系に拡張する必要があることが実験的に示唆された。 また、この結果は、不純物の添加により確かにナノ粒子の結晶性を制御することができるが、同時に金属そのものの酸化還元電位や還元剤の活性も変化し得られるナノ粒子の形態やサイズにも影響が及ぶことを意味しており、サイズと欠陥(結晶性)を同時にコントロールするためには、反応条件の精密な制御が要求されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、本年度は、前年度に実施した不純物を含む系でのナノ粒子析出プロセスの評価としてQCMを作用極として用いた電気化学的評価手法を発展させ、反応浴への不純物添加がナノ粒子の析出挙動と還元剤の酸化活性に及ぼす影響について考察を行った。また、XRDについてもHalder-Wagner法により求めた結晶子サイズをナノ粒子中の欠陥の指標として適用し、有意なデータを取得できることを示せたため、おおむね順調に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見に基づき、不純物の添加がもたらすナノ粒子への欠陥の導入(結晶性の低下)と、同時に生じる粒径の変化について、これらの同時コントロールを可能とする合成条件を見出すとともに、実際に欠陥・粒径を同時制御したナノ粒子について、物性評価を実施する。特に、当初の計画でも記載したとおり、ナノ粒子中の欠陥と固相拡散特性との相関について、高温XRDを用いて評価する。 本年度までの研究では、粒子の結晶性のみを指標として扱っており、具体的な欠陥の種類等については切り分けられていない。可能であれば、ナノ粒子中の欠陥の状態をより詳細に理解することが望まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に計画していた国際学会について参加を見送ったことから,旅費およびそれに伴う実験の試行回数が減少したことにより物品費が不要となった。 2023年度は、ナノ粒子の欠陥と形態の同時コントロールのための実験および固相拡散に関する特性評価のための消耗品が当初の計画よりも必要になると考えており、加えて、積極的な対外発表のための旅費や学会参加費等として予算を計上する。
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