研究課題/領域番号 |
21K14450
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
増田 勇人 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 講師 (90781815)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 異常輸送 / 非平衡熱力学 / テイラー渦流 / 円錐型テイラー渦流 / 浮力 / 熱物質移動 / 混合強化 / プロセス強化 |
研究実績の概要 |
本研究では非平衡場においてしばしば観測される高速熱・物質移動現象(異常輸送)の速度論構築を目的として,テイラー渦流系をモデル流動場として,特に高分子の複雑レオロジー特性が誘発する揺らぎによる効果について検討している。本年度においては局所的に温度や遠心力が変化する非平衡場を対象とした。温度不均一系では通常の円筒型テイラー渦流において軸方向ならびに径方向に温度分布を与え,実験および数値解析の両面から熱・物質移動特性を検討した。温度分布が小さい場合は比較的広いレイノルズ数範囲で安定したテイラー渦流もしくは波動テイラー渦流が観測されたが,温度分布が大きい場合,浮力の影響により多様な流動モードが観測され,特に流体レオロジー特性に応じて螺旋流動や渦セル上昇モードが観測された。またヌッセルト数やシャーウッド数は見かけの無次元数(レイノルズ数,グラスホフ数)が同程度であったとしても異常輸送が起こる特定のモードでは大幅に大きくなり,画一的な無次元数による整理を再考する必要性が示唆された。 また円錐型テイラー渦流では遠心力が軸方向に沿って変化するため,ある特定のレイノルズ数範囲では渦セルが自発的に上昇するモード(upward motion)が観測されるが,高分子を添加することでこの上昇速度が大きくなることがわかった。さらに数値解析を用いて混合特性を評価した結果,非ニュートン性が強いほど混合促進が期待できることがわかった。ここで観測された混合促進は物質移動強化によって起こるものであるが,異常輸送と呼べるほどの高速現象ではない。しかしながら層流状態でありながらも場を不均一系にすることで物質移動を強化できることを示唆した結果であり,低レイノルズ数での操作に制限されるプロセスでの活用が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験装置および計測系の整備が予定よりも早く進んだため,当初のスケジュールよりも前倒しで実験に取りかかれた。一方で数値解析のモデル構築はやや遅れているものの全体的にはおおむね順調に進展している。 得られた成果は国際学術誌(3報),国際会議(1件),国内会議(2件)で報告している。
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今後の研究の推進方策 |
異常輸送が起こる条件や流体特性についてはおおよそ抽出できたため,今後は計画通り,より詳細なメカニズムの解明を行う。具体的には軸流や内円筒の加速あるいは減速などの非定常操作を与え,その動的挙動から外乱による影響に対する安定性などを考察する。その過程で気泡や液滴などを分散させる実験を予定しているため,界面に関連した物性値計測のための機器を導入する。また数値解析モデルの開発はすでに終了したので,今後はより多くの条件での計算ならびにポアンカレ断面などを作成し,異常輸送を非線形現象の観点から考察およびモデル化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は新型コロナウィルスの影響で出張が著しく減ったため,旅費のうち多くが残額となった。また研究計画のうち,一部実験よりも数値解析を優先的に進めたため,物性値測定機器の導入を2022年度に行うこととした。
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