研究課題/領域番号 |
21K14464
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
石川 理史 神奈川大学, 工学部, 助教 (60813350)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 結晶性複合酸化物 / 多元化 / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
※多元系結晶性Mo-V複合酸化物の合成と触媒作用 (1)結晶性Mo3VOx複合酸化物の結晶構造を保ったままW、Cuの導入に成功し、これら添加金属元素の触媒作用への効果を明らかにした。Wの添加により水供給時に触媒酸性質が変化すること、Cuの添加により分子酸素活性化の程度が変化することが分かった。この触媒はアクロレイン選択酸化反応に工業触媒として使用される多元系Mo-V-W-Cu複合酸化物と比べて触媒重量当たりで2倍程度高い触媒活性を発現した。触媒物性および触媒機能の比較から、今回合成に成功した結晶性多元系Mo-V-W-Cu複合酸化物が、工業触媒としての多元系Mo-V-W-C複合酸化物の真の触媒活性構造であることを明らかにした。 (2)結晶性Mo3VOx複合酸化物の結晶構造を保ったままZn、Sbの導入に成功した、Znは結晶構造中の7員環に、Sbは6員に取り込まれていることが分かった。Zn、Sbの導入はプロパンアンモ酸化反応におけるアクリロニトリル(AN)選択性を優位に向上させ、Zn、Sbが同時に導入された触媒はMo-V-Zb-Sb複合酸化物は2元系、3元系触媒よりもさらに優れたAN選択率を示した。 ※結晶性Mo3VOx複合酸化物の活性酸素種の解明 これまでの研究により、結晶性Mo3VOxが適切な酸化還元処理により7員環近傍の格子酸素が不可逆的に脱離すること、格子酸素欠損が生じることでエタン酸化活性が著しく向上することを見出している。今回、DFT解析により、酸素欠損が生成することで、酸素欠損を形成したMo上に電子が局在化することが分かった。同酸素欠損サイトに分子酸素を導入すると、局在化した電子が分子酸素に移行し、ペルオキソが生成した。生じたペルオキソを活性酸素種としてエタン酸化反応を解析したところ、DFT計算によって実測の活性化エネルギーをほとんど再現できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多元系Mo-V複合酸化物の合成と触媒反応への展開については、当初の目的通り、順調に進展している。結晶性多元系Mo-V-W-Cu複合酸化物が合成できた事実は意義深く、これにより工業触媒の触媒活性構造を特定できた。この結果は工業触媒合成における局所構造設計の重要性を提示し、工業触媒合成の学理構築に大いに貢献したと考えている。 加えて、Nb、Ta、W等の5、6族元素を結晶性Mo3VOxに担持し、600℃程度の温度で熱処理を行うと、これら添加金属元素がナノレベルの薄さで同物質を被覆する現象を発見した。これらの元素が熱拡散するドライビングフォースは明らかにできていないが、被覆によりプロパンアンモ酸化反応において、アクリロニトリル選択率が大きく向上することを見出した。結晶構造中への金属元素導入にとどまらず、固体物質被覆による多元化の方法論を見出した事実は興味深い。この点で、当初の計画以上に研究が進展していると結論した。 結晶性Mo3VOx複合酸化物の活性酸素種解明について、DFT計算により、電子の局在化と局在電子の分子酸素への移行による活性酸素種生成メカニズムを提案できたことは意義深い。一方、計算結果を実験によりサポートすることには成功しておらず、今後実験面での進展が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
多元系Mo-V複合酸化物の合成について、結晶構造中への異種金属導入法をほぼ確立できた。今後も新たな異種金属元素の添加によって多機能性のMo-V複合酸化物を合成する予定である。また今年度の研究により、第5、6族元素が結晶性Mo3VOx複合酸化物上をナノレベルで被覆する現象を発見した。被覆により触媒機能および触媒物性(耐熱温度など)が大きく変化した。今後、被覆現象が生じるドライビングフォースの解明、被覆後物質の物性調査を進める予定である。結晶性Mo3VOxは工業触媒と関係の深い結晶性材料であるため、この研究により被覆の化学を解明できれば、今後の工業触媒設計における学理構築に貢献できると考えている。 結晶性Mo3VOx複合酸化物の活性酸素種解明について、計算化学上では一定の結論に達したと考えている。一方、実験的なサポートが乏しい。実験的に活性酸素種の同定を進める必要がある。具体方法論は提示できないが、各種分光実験を組み合わせることで目的が達成できればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス拡大の影響により、旅費使用がなかったことが大きい。
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