アルツハイマー病の原因及び発症にはアミロイド β タンパク(Aβ)が密接に関わっているとされている。Aβは線維状の凝集を形成し、神経毒性を示す。現在、用いられているアルツハイマー病(AD)の薬は症状を緩和するためのものであり、根治を目指した薬の開発が強く求められている。本研究では、短鎖ペプチドを用いてAβの線維化阻害を目指した。L体アミノ酸で構成されるAβに対して、Aβ の一部のアミノ酸配列を模倣したD体短鎖ペプチドを用いることでステレオコンプレックスを形成させる。これによりタンパク質の立体構造を変化させAβの線維化凝集を阻害することができるのではないかと考えた。 Aβのキー配列と相補的な配列のD体ペプチドを検討した結果、ステレオコンプレックス形成以上にフェニルアラニン側鎖同士のπ-π相互作用がAβ線維化阻害に重要であることを見出した。そこで、D体フェニルアラニン(f)のみからなるオリゴペプチドに正電荷を持つD体アルギニン残基を6つ配列したペプチド(R6)を結合させることで両親媒性を付与したペプチド(fnr6)を作製した。fnr6はfの残基数に応じてAβ線維化阻害活性が変化し、一つの配列では現在最もAβ線維化阻害活性が高いと考えられているRD2よりも高いAβ線維化阻害活性を示した。fnr6をAβと共に神経繊維芽細胞であるPC12に投与したところ、Aβ単体投与に比べて顕著に毒性の低下が認められた。そこで、動物に対するf4r6の影響を調査した。まず、健常マウスに対して蛍光ラベル化f4r6の高濃度水溶液を腹腔内投与したところ、急性毒性はみられなかった。脳組織を分析したところ、蛍光ラベル化f4r6の移行が認められた。続いて、アルツハイマー病発症モデルマウスにf4r6を腹腔内投与し脳内のAβ沈着を確認したところ、f4r6投与群においてAβの沈着が促進している結果となった。
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