研究課題/領域番号 |
21K14476
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増田 晋也 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (80885468)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 配位子保護金クラスター / 固体触媒 / 金クラスター触媒 / 酸化反応 / 層状複水酸化物 / インターカレーション |
研究実績の概要 |
当該年度は、サイズ制御したチオラート保護金25核クラスターの層状複水酸化物(LDH)担体へのインターカレートを試みた。種々の条件検討の結果、末端にカルボキシ基を有する配位子を用いた際にLDH合成過程においてクラスターの吸着が特異的に進行した。配位子に保護された状態では活性を示さないため、焼成によって配位子の除去を試みたところ、しきい値より高温では凝集に伴って低活性化し、低温では触媒活性があまり発現しなかった。一方で適切な温度で焼成を行った場合、長時間焼成を行ったとしても過度な凝集が進行せず高活性を示すことを見出した。金L3端XAFS測定の結果、12時間焼成以降Au-Au結合およびAu-S結合の配位数はそれぞれ5および0.5程度に保たれていた。この傾向は金の担持量が1wt%および5wt%のどちらでも同じであった。得られた配位数からおおよそ6~8個のチオラート配位子が残存していると考えられ、これが金-担体界面に存在して金および担体に強く吸着し、本焼成温度において金クラスターを安定化していることが示唆される。一方でこの金クラスターをLDHに担持したサンプルを焼成した際には、1wt%ではインターカレート触媒と同様のXAFS結果が得られ、5wt%を担持した際には凝集が進行した。このことからLDH合成過程における金クラスターのインターカレーションが凝集の抑制に有効であり、適切な温度での焼成によって安定な構造体が合成可能であることを見出した。現在までに10wt%以上の金クラスターの吸着に成功しており今後そのサイズ評価が必要であるが、このように高担持量で単分散に金クラスターを担持する手法は、活性な金クラスター担持触媒を合成する上で有用であると考えている。今後本触媒を用いた触媒特性の評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的の一つとして、(1)配位子保護金クラスターを層状複水酸化物(LDH)へインターカレートした構造体の合成および(2)クリーン触媒反応における特性評価を掲げている。当該年度において目的(1)である触媒の合成および評価をほとんど達成しており、(2)についても既に少し取り組んでいる。また、本目的に加えて高担持量での担持や耐久性の向上についても研究計画書で掲げていたが、適切な温度で焼成をすることで高担持量でかつ焼成下で安定な構造体を合成することにも成功した。これらの結果を踏まえて、当初の計画以上に進展していると判断している。今後はさらに本触媒の合成手法の拡張性を高めること、またその反応特性を評価することを目標する。
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今後の研究の推進方策 |
1インターカレート触媒の合成については、異なるサイズの金クラスターの精密担持を行う予定である。また、更なる高担持化(~20wt%)を行った際のサイズ評価を行う必要がある。現在はクリーン触媒反応およびモデル触媒反応としてベンジルアルコールの空気酸化を用いて、反応活性および配位子脱離の程度の評価を行っていが、金クラスター触媒の特性をさらに評価するため、他の反応についてもその特性解明を行う必要がある。そこで、本触媒を用いて様々な反応系、特に広範的に研究が行われている酸化反応における金クラスターのサイズ効果の解明を行い、今後の触媒設計指針としての知見を得たい。直近の目標としてはバイオマス由来の5-hydroxymethylfurfralの酸化による2,5-furandicarboxylic acid合成反応におけるサイズ効果を検討したい。こうした反応では中程度の温度(~100℃)で反応が行われることが多いが、これらの条件で金クラスターは凝集による失活を起こすことがある。そこで今回安定に合成できた触媒を用いて、このような温度でのクラスターの反応特性および安定性を評価することを目標としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した物品および使用した共通機器の利用料金等を他の予算にて賄うことができたため、当該年度の使用予定額分を使用せずに繰越すことになった。現在、当初の予定よりも研究が推進しているため、次年度における触媒のキャラクタリゼーションのための共通機器利用料として計上する。例えば電子顕微鏡観察には一日当たり~9万円の利用料が発生するため、これらの利用に用いるためには必要な金額であると考えている。
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