研究課題/領域番号 |
21K14479
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
坂根 駿也 中央大学, 理工学部, 助教 (00882391)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 銅ナノ粒子 / 光還元法 / PEDOT:PSS / 熱電材料 / セレン化銅 / ナノワイヤ / ゼーベック係数 / 電気伝導率 |
研究実績の概要 |
本研究では、フレキシブルな熱電材料として期待されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)に注目し、光還元法を用いて銅ナノ粒子/PEDOT:PSSを合成することで、PEDOT:PSSの熱電物性を制御することを目的としている。 昨年度、PEDOT:PSS分散液を用いて光還元法により銅ナノ粒子を合成することができた。しかし、PEDOT:PSSに対して紫外光照射することによってPEDOTは還元され、電気伝導に寄与するポーラロン、バイポーラロンが減少してしまうことが分かった。今年度は、PEDOTの還元を防ぐために、銅ナノ粒子を合成してからPEDOT:PSSに導入することを考えた。しかし、銅ナノ粒子は大気不安定であるため、合成後に導入するのは難しい。そこで、比較的大気安定なセレン化銅を合成し、PEDOT:PSSに導入するという方向へ方針転換を行なった。 セレンナノ粒子、超純水、エタノールを加えた混合溶液に酢酸銅を加え、紫外光を照射することで光還元法によるセレン化銅ナノ粒子の合成を行なった。X線回折法を用いて結晶構造を分析すると、室温近傍で高い熱電性能を示すα相が合成できていることが分かった。このセレン化銅ナノ粒子をPEDOT:PSSに導入した薄膜を、スピンコート法を用いて作製したが、熱電性能にほとんど変化が現れなかった。そこで、このナノ構造の形状に注目し、セレンナノワイヤを前駆体として、同様の光還元法によりセレン化銅ナノワイヤを合成した。すると、セレン化銅ナノワイヤをPEDOT:PSSに導入した薄膜では、熱電出力因子(ゼーベック係数の2乗×電気伝導率)が約10倍程度増大することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
銅ナノ粒子をPEDOT:PSSに導入して熱電性能を向上させる予定をしていたが、セレン化銅ナノワイヤをPEDOT:PSSに導入するという方針へ変更した。セレンナノワイヤを既報の方法で合成し、超純水、エタノールを加えた混合溶液とともに酢酸銅を加え、紫外光を照射することで光還元法によるセレン化銅ナノワイヤの合成を行なった。セレン化銅には様々な相構造があるが、銅とセレンの混合比を2:1にして長時間の光照射によって室温近傍で高い熱電性能を示すα相が合成された。PEDOT:PSS中に合成したセレン化銅ナノワイヤを導入した薄膜を、スピンコート法を用いて作製し、昨年度立ち上げた熱電物性測定装置を用いて評価した。すると、約40wt%以上セレン化銅ナノワイヤを導入したときに急激に電気伝導率が増大することが分かった。結果として、熱電出力因子(ゼーベック係数の2乗×電気伝導率)が約10倍程度増大することが分かった。 以上より、当初の目的であった銅ナノ粒子の合成からセレン化銅ナノワイヤの合成に方針転換することになったが、PEDOT:PSSの熱電物性向上を実現することができたため、順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
セレン化銅ナノワイヤを合成し、PEDOT:PSS中に導入することで熱電物性を向上させることができた。しかし、合成に関してはセレン化銅ナノワイヤの合成機構の不明瞭さが残っている。また、セレン化銅ナノワイヤ単体の熱電物性も明らかになっていない。 そのため、今後は光照射時間を変化させて合成し、合成途中のセレン化銅ナノワイヤを詳細に分析することで、セレン化銅ナノワイヤの合成機構の解明を行なう。さらに、セレン化銅ナノワイヤ単体の熱電物性を測定し、理論計算を合わせることでセレン化銅ナノワイヤ単体の熱電物性を明らかにする。そこで得られた知見をもとに、セレン化銅ナノワイヤ単体の熱電物性を増大させる方法を模索し、セレン化銅ナノワイヤ/PEDOT:PSS薄膜の熱電物性をさらに向上させることを狙う。
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次年度使用額が生じた理由 |
銅ナノ粒子/PEDOT:PSSの作製が上手くいかなかったため、予定していた熱電物性の解析用ソフトなどの購入を見送った。 銅ナノ粒子からセレン化銅ナノワイヤの合成へと方針転換したため、来年度は予定よりも必要な薬品が増えることが予想される。そのため、来年度はこれらの薬品などの購入に充てたいと考えている。
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