研究課題
ナノメートルスケールのギャップを持つ金属構造の間に単一の分子が配置された系(単一分子接合)における光・電子・スピンのダイナミクスを明らかにするための理論研究を推進した。今年度は、光と物質の相互作用を利用してナノ物質の物理的特性を「制御」できうることに着目し、金属ナノ構造の表面近傍に励起されうる局在表面プラズモン(LSP)と、分子を強く結合させることにより、分子の電界発光特性を制御する研究を行った。以下にその内容を記す。電荷注入により分子が励起される場合、一般にスピン一重項(S1)および三重項(T1)励起電子状態が1:3の割合で形成される。T1から基底電子状態(S0)への輻射遷移は一般に遅く、T1の形成は発光効率の低下を招く。電荷注入による分子励起において、T1を形成させずにS1を選択的に形成できれば、これらの課題を克服しつつ、電界発光の高効率化を実現できる可能性がある。本研究では、プラズモニックナノ共振器中の単一分子接合において、LSPと分子が強く結合し両者の混合状態(ポラリトン)が形成される場合の電界発光に注目した。単一分子接合では、電極間に印加する電圧を制御することで、系の最低エネルギーの励起電子状態を選択的に励起できる。またポラリトンの形成には、T1-S0遷移に比べて遷移モーメントの大きいS1-S0遷移が支配的に寄与する。系の最低エネルギーの励起電子状態をポラリトンに対応させることで、T1の形成を避けつつ、S1を形成させることが可能になると予想される。そこで、系のモデル化を行い、電界発光特性を調べた。その結果、電荷注入によりポラリトンを選択的に励起できること、および、これにより系の電界発光の効率を向上できることがわかった。LSPのエネルギーや分子との結合強度などに対する発光効率の依存性や高い効率が実現する条件について議論し、論文にまとめ発表した。
2: おおむね順調に進展している
プラズモニックナノ共振器中の単一分子接合における、スピン一重項および三重項励起電子状態からの電界発光に関する理論研究を行い論文を発表するなど、研究が進展しているため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
光・電子・スピンのダイナミクスの実時間追跡のための理論は構築しているため、過渡応答を観測する実験と対応させるべく、理論を発展させる予定である。
主に旅費の使用額が当初計画していた額を大きく下回ったため、次年度使用額が生じてしまった。これは新型コロナウィルス感染症蔓延の影響により、学会や研究会の開催形式の変更、予定していた出張のキャンセルなど、確保していた旅費を予定通り使用できない状況が続いたのが原因である。昨今は行動規制が解消されつつあり、次年度は現地開催の学会への参加や、現在進めている研究の進展などを目的とした研究機関への出張を行うなど、使用額を調整できるよう対応する予定である。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Nano Letters
巻: 23 ページ: 3231-3238
10.1021/acs.nanolett.2c05089
arXiv
巻: - ページ: 2212.11519
10.48550/arXiv.2212.11519
巻: - ページ: 2212.13377
10.48550/arXiv.2212.13377