研究課題/領域番号 |
21K14483
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
大音 隆男 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (20749931)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / ナノコラム / キラル構造 / クラスタ配列 / フォトニック結晶 / メタマテリアル |
研究実績の概要 |
発光デバイスの特性は半導体材料の物性によって決まるところが多いが,従来にはない光機能を発現・制御できれば,デバイスの応用範囲を拡大できる.本研究では,Tiマスク選択成長法による規則配列窒化物半導体ナノコラム構造を応用した人工ナノ結晶構造を設計し,光の状態のエンジニアリングにより,新規光機能を可視光領域で発現させて,高機能な発光素子を開拓することを目的として研究を推進した.本年度は,単位格子内のナノコラムのクラスタリング方法により結晶の対称性を変化が偏光・光学活性に与える影響について探索した. 単位格子内のナノコラムの分割方法による発光特性の変化を評価するために,平面波展開法を用いてフォトニックバンドの理論計算を行った.4つ組クラスタでは構造の異方性により対称性が低下し,バンド端での縮退が解けることで,面内偏光がナノ構造で制御できることを理論的に明らかにした.また,クラスタ配列ナノコラムの顕微分光測定を行い,発光特性評価を行った.同一の周期・充填率のナノコラムアレイであっても,コラムの分割によりナノ結晶効果が増大して発光強度が増大するとともに,回転対称性が低下し,高い面内偏光度が得られた. ナノコラムフォトニック結晶において光学活性を発現するために,単位格子にキラル構造を導入し,厳密結合波解析法により旋光性を評価した.クラスタ配列のコラム径や位置を変化させることで鏡映対称性が消失し,偏光回転を得ることができた.また,コラム径の変化によりピーク波長のシフトと旋光性の増大が可能であることを明らかにした.さらに,導波路構造の導入により90度に近い大きな偏光回転が得られることがわかった.以上から,GaN系キラル型ナノコラムフォトニック結晶において従来材料が持たない光学活性を発生位することができ,小型の可視円偏光光源として有用であると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究は,以下の理由に示すように,申請書に記した研究計画がおおむね順調に進展していると評価した.
1) 単位格子内のナノコラムを充填率を変えずに複数のナノコラムに分割することで,従来の三角格子(1つ組)と比較して,発光強度が高くなることを見出した.これは,クラスタ配列によってコラム直径が小さくなることで,より大きなナノ結晶効果が働いた結果であると考えられる.実際に,歪緩和効果による輻射再結合確率や光取り出し効率を計算することで,理論的にクラスタ配列ナノコラムの優位性を示した.また,クラスタ配列化により回転対称性を変化させ,面内の偏光特性を制御できることを示した.以上の結果から,クラスタ配列化による光学特性の優位性を示すことができており,研究は順調に進展していると考えらえる. 2) ナノコラムアレイの単位格子構造を従来のアキラル構造からキラル構造に変更し,本来窒化物半導体が持たない光学活性を発現するために,厳密結合波解析によってナノ構造の設計を行った.特殊な構造(卍,Sなど)を用いずにナノコラム構造だけで光学活性が発現することを理論的に示し,コラム直径や格子定数の変化によりピーク波長や旋光性の大きさを変化・制御できることを明らかにした.さらに,導波路構造を導入することで,導波路共鳴が起きる波長で旋光性が大幅に増大できることがわかった.以上のように,キラル型ナノコラム構造における光学設計の手法を確立し,光学活性が得られるナノ構造の設計も得られていることから,本研究は順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
上述した現在までの進捗状況を踏まえて,今後の研究展開については以下のように計画している.
1) キラル構造に金属ナノ構造を導入して,金属/誘電体界面に表面プラズモンを発生することで光を局在化させて,旋光性の増大や発光増強を達成したい.また,キラル構造や3つ組クラスタは,構造の非対称性から,Γ点での電界分布が非反転対称になることから,電界の非反転対称性からレーザ発振の閾値の低下が期待される. 2) Tiマスク選択成長法により,実際にキラル型ナノコラムフォトニック結晶の作製を行い,光学活性が発現するか検討する.理論計算と比較ができるように,円偏光の照射やナノ構造からの円偏光検出ができる顕微光学系を構築する.直線偏光板に通した半導体レーザを,1/4波長板で円偏光に変換し,ナノ構造試料に照射した後,出てきた左右円偏光の光を再度1/4波長板で直交した直線偏光にそれぞれ変換して強度比を算出する.実験的に得られた光学活性を得られた理論計算と比較して議論したい. 3) 表と裏で物性が異なるヤヌス型ナノコラム構造の光学特性評価を検討する.銀や金などの金属をナノコラムの片側に付加すると,付加した部分のみ表面プラズモン結合が生じて特異的な特性が実現できる.このような構造においては,電場や磁場の向きで透過率がスイッチする光シャッターなどの新規光機能の実現が期待でき,構造の最適化により原理実証を行いたい.
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