本年度では、量子論に立脚した計算物質科学の手法を用いて、原子層物質の安定構造の探索と電子状態の解明を行った。 遷移金属とカルコゲン原子からなる遷移金属カルコゲン化合物は二次元の半導体物質として知られている。二硫化モリブデン(MoS2)を1次元方向に切り出したナノリボンに着目し、アームチェア形状からジグザグ形状の間で5種類の端構造を有するナノリボンの電子状態を明らかにした。計算の結果、ジグザグ端を有するMoS2ナノリボンでは、リボン幅に平行に電気的極性が生じることを明らかにした。この極性は、MoS2ナノリボンをリボン垂直方向に伸ばすと正に増加し、縮ませると負に増加することから、ジグザグ端を有するMoS2ナノリボンは圧電分極を有することを明らかにした。 同時に、新奇炭素ネットワークの物質設計と物性解明を行った。sp2炭素とsp3炭素、あるいは五員環と六員環からなる二次元新奇炭素ネットワークの物質設計を行った。この新規炭素ネットワークは、五員環二つが頂点を共有した分子と、六員環であるベンゼン分子から構成されており、凸凹とした構造を有している。このネットワークは、グラフェンと比較してエネルギー的に0.86 eVほど不安定であるが、フォノン分散では0モードが見られないため、ネットワーク構造を保持できる。電子構造を見ると、このネットワークは金属で、かつフェルミレベル近傍に高い状態密度を有することから、スピン分極が生じることを明らかにした。当該系は全炭素からなる磁性体であることを予言した。
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