研究課題/領域番号 |
21K14487
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
黒川 雄一郎 九州大学, システム情報科学研究院, 助教 (20749535)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 希土類フェリ磁性体 / スピンオービットトルク / スピントルク磁化発振 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、希土類フェリ磁性体を用いた電流によるスピントルク磁化操作の中で、これまで考慮されてこなかった各元素に固有なスピントルク係数を見積もることである。希土類フェリ磁性薄膜は希土類磁性元素と遷移金属磁性元素による二つの種類の磁化を持ち、スピントルクの寄与が構成元素ごとに異なることが予想されたが、従来では二つの磁化の合成値を一つの磁化とした解析が行われており、元素ごとの寄与は考慮されてこなかった。本年度では希土類フェリ磁性体の温度を変化させることで希土類元素、遷移金属元素の磁化が互いに打ち消しあう温度である補償温度付近のスピントルクを測定し、スピントルク係数を見積もる予定であった。一方で、用意した電磁石の試料スペースが小さく、予定していたペルチェ素子での冷却が困難であった。したがって、本年度では希土類フェリ磁性体Tb-Gd-Fe合金を用いて室温の測定からスピントルク係数を見積もった。その結果、Gd-Fe合金にTbを添加していくと、Tb 8at%以上の組成でTaをスピントルク注入層として用いた場合にスピントルクが観測されなくなるという結果を得た。一方で、WやPtをスピントルク注入物質として用いた場合は、Tb8at%以上の組成でもスピントルクが観察された。これは、Tb添加によりTaのみ選択的にスピントルクを不活性化するという重要な結果である。また、フェリ磁性の二成分の磁化を用いたマイクロマグネティックシミュレーションについてもその構築と基礎的な検討を行った。GdFeCo合金をモデル物質とし、補償組成付近でスピントルクによる磁化発振を数値解析したところ、二つの磁化成分の複雑な働きにより、従来よりも高い周波数で発振が可能になることが分かった。これらの結果は、希土類フェリ磁性体の二成分の磁化に起因した新たな磁化ダイナミクスを明らかにした重要な結果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
概要で述べた通り、電磁石中での試料スペースが予想していたよりも小さく、市販ペルチェ素子での冷却が困難であった。このため、予定していた希土類フェリ磁性体のスピントルクの温度依存性の測定が行えず、遅れていると判断した。一方で、二成分を有するマイクロマグネティックシミュレータの構築や、Tb-Gd-Fe合金の室温でのスピントルク測定から新たな知見が得られ、当初予定とは別方面での進展が得られたと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの予定通り、温度変調可能なスピントルク測定系を構築し、スピントルク測定を行っていく予定である。ペルチェ素子を試料スペースに挿入するのではなく、熱伝導率の高い金属を介して温度を伝えることにより、小さい試料スペースでも冷却が可能になるように電磁石を用いた測定系の改造を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画ではバイポーラ電源を購入する予定であったが、別の手持ちの電源で賄うことができたので差額が生じた。本年度では予定している温度変調機構の作製に必要な装置類を購入するのに要する資金として研究費を使用してく。
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