研究課題/領域番号 |
21K14488
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
中村 飛鳥 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (90823584)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 超高速時間分解電子顕微鏡 / 光音響波 / 磁気・誘電ドメイン |
研究実績の概要 |
本研究は強磁性体、強誘電体中にps×nmの時空間スケールの光音響波を発生させ、その光音響波による磁気、誘電ドメインの生成および駆動を目指すものである。このような研究のためには、結晶中の音響波(格子歪み)だけでなく、磁気、誘電ドメインの観測をps×nmスケールで行う必要がある。 今年度は磁気誘電ドメイン観測の基礎となる5次元走査型電子顕微鏡(5D-STEM)の開発を行った。本手法は収束電子線により試料上を走査しながら、各点での回折像の時間依存性を取得する手法である。収束電子線回折(CBED)像を解析した場合には、結晶の歪みや回転など、格子ベクトルの変化を定量的に評価することができる。この手法によりシリコン薄片中の歪みの時間依存性を定量的に評価することに成功し、現在論文を投稿中である。また、5D-STEM-CBED解析手法に関して特許を申請中である。さらに5D-STEMを強磁性体や強誘電体に適用し、電子ビームの偏向量を定量的に評価する位相差分コントラスト(DPC)法を用いることにより、今後音響波のみならず磁気、誘電ドメインのps×nmスケールでの定量的評価が可能となる。 さらに、誘電ドメインの定量的評価のため、典型的な強誘電体であるBaTiO3試料を収束イオンビーム装置によって加工し、電子顕微鏡での観察をおこなった。試料の準備過程や強誘電相転移の際に結晶内にクラックが生じることがあるため、これと強誘電ドメインとの分離を温度依存性測定を行うことで実現した。その結果、強誘電ドメインに対応すると考えられる300nm程度の大きさの実空間パターンを暗視野像およびDPC法から観測した。このような試料に音響波源となる金属蒸着を行い、光励起することにより、光音響波を発生させることができると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
5D-STEMは世界的に見てもこれまで報告がされていない実験手法であり、その実現のためには実験、解析両面での工夫が必要であると予想していた。特に、5D-STEMで用いられるパルス電子線は強度が通常の熱電子と比べ1万倍以上弱いことから、この弱い電子線強度を補うような解析が必要である。また、5D-STEMのデータは約1TB程度にまで達することから、高速なデータ解析が課題であった。我々は汎用的な多次元データ並列解析システムを構築・逐次改良することで、現実的な測定時間の範囲で5D-STEM-CBED解析を実現した。このような汎用解析システムは今後強磁性体、強誘電体におけるDPC測定の際にも必須となる技術の一つであり、来年度以降の研究の礎を築くことができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで評価してきたBaTiO3に関して、新年度早々にはポンプ光を照射し、光励起ダイナミクスを観測する。光音響波は試料上に蒸着された金属部分等から発生するため、観測された音響波と強誘電ドメインのダイナミクスに応じて蒸着パターンを工夫し、誘電ドメインの生成と駆動を効率的に行うことができる試料の条件探索を行う。また、音響波の圧力により誘電ドメインの大きな変化を引き起こすためには、相転移温度近傍での測定も有力であると考えられる。これらの測定条件を探索することで誘電ドメインの生成と駆動の過程を調べる。また、強磁性体についても同様の測定を行い、磁気ドメインの生成駆動の研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた高性能解析用ワークステーションについて、別用途で利用していたワークステーションを再利用できたことで購入の必要がなくなった。 次年度以降、測定系のより効率的な運用のための自動化や光学部品等の消耗品に使用する予定である。
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