研究課題/領域番号 |
21K14490
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉井 丈晴 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70882489)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 柔軟グラフェン多孔体 / 応力応答性 / 固体触媒 |
研究実績の概要 |
固体触媒において,近接した活性点が協奏的に作用し,特異な触媒機能が発現することは古くから知られている.ここで活性点間の距離は非常に重要な要素であるが,金属有機構造体(MOF)などの材料を用いたとしても,外部刺激により活性点間距離を連続的・可逆的に変化させることは困難であった.本研究では,柔軟なグラフェン多孔体の触媒材料としての利用可能性に着目し,応力により活性点間距離を能動的に制御可能な新規触媒反応システムを構築することを研究目的とする. 2021年度はグラフェンネットワークで構成された3次元規則性炭素構造体(Ordered Carbonaceous Framework, OCF) について,本研究目的の達成に向けた材料設計・合成と特性評価を行った.OCFは重合部位を配したポルフィリン類を前駆体として熱処理を施すことで得られ,元の結晶構造を反映した高い規則性が特徴である.また,金属有機構造体(MOF)のように単核の金属種を有し,触媒応用に向けて有望な材料である.しかしながら,得られるOCFの多孔性が低いことにより,従来型OCFでは本研究で目的とする触媒反応系への適用が困難であった.ここで,前駆体の重合部位を増やすことが多孔性の発達に繋がると考え,4つまたは8つの重合部位を有するNiポルフィリン前駆体を合成した.これに熱処理を施すことで,高い規則性を有する上,ミクロ多孔性が発達した3種の新規OCF合成に成功した.さらに,応力印加・解放下でのエタノール吸脱着測定を行うことで,本材料が柔軟性を有することが見出され,このような特徴はOCFが単層のグラフェンで構成されていることに由来すると結論付けられた.以上のように,応力応答型触媒反応実現に向けて,その触媒材料候補となる柔軟かつ多孔質なOCFの合成に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,柔軟なグラフェン多孔体の触媒材料としての利用可能性に着目し,応力により活性点間距離を能動的に制御可能な新規触媒反応システムを構築することを研究目的とする.2021年度は本系に適した材料の設計・合成と特性評価を行った. 3次元規則性炭素構造体(OCF)は単原子金属が埋め込まれた単層グラフェンで構成される材料群である.本研究目的の達成に向けて有望な候補材料であるものの,材料の多孔性が低いことにより目的とする応力応答型触媒反応系への適用が困難であった.そこで,前駆体となるポルフィリン錯体の設計・合成を行い,多孔性OCFの合成を試みた.まず,4つまたは8つのエチニル基を修飾したNiポルフィリン錯体を新たに合成した.これを前駆体として600 ℃で熱処理を行うことにより,高い規則性を有する上ミクロ多孔性が発達した3種の新規OCF合成に成功した.さらに,本材料の柔軟性を応力印加・解放下でのエタノール吸脱着測定によって評価した.応力印加に伴ったエタノールの脱離と,解放時の再吸着が繰り返し観測された.以上のように,多孔性OCFが単層のグラフェンで構成されていることに起因して,従来の炭素材料では見られない柔軟性を有することを見出した.このように,本年度の研究を通して,金属活性種を有する柔軟な多孔性材料の合成に成功し,最終目標とする応力応答型触媒への発展可能性を十分に示すことができた. 当該年度において,本研究内容についての原著論文1報を報告したほか,関連する原著論文2件を報告した.また,上述の内容を含めたOCFの合成・応用に関して,総説論文1報を発表した.以上より,当該研究は現在まで当初の計画以上に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,柔軟なグラフェン多孔体を用いて,応力応答型の新規触媒反応システムを構築することを研究目的とする.2021年度は本系に適した3次元規則性炭素構造体の設計・合成と特性評価を行った.2022年度は本材料をベースとして触媒反応システムを構築することを目指す.さらに,ゼオライト鋳型炭素やグラフェンメソスポンジといった他の柔軟性炭素材料についても検討を行い,本系に適用可能な材料の拡張を狙う. (1)応力応答型触媒反応システムの構築 応力応答型の反応を検討するためには,応力印加しながら反応試験が可能な独自の反応装置が必要となる.現在,高温・高圧下で応力印加しながら反応を行うプロトタイプ装置を作製中である.また,目的とする反応の生成物分析が可能なガスクロマトグラフや液相クロマトグラフなどの準備は2021年度に完了している.2022年度においては,2021年度に調製した柔軟材料を用いて,応力応答型反応制御に取り組む予定である. (2)他の柔軟炭素材料への展開 上述の通り,2021年度においては.3次元規則性炭素構造体(OCF)に注目し,この多孔性拡張および柔軟性評価を行った.一方,我々の研究室では既に,単層グラフェン多孔体であるゼオライト鋳型炭素(ZTC)やグラフェンメソスポンジ(GMS)が柔軟性を示す炭素材料であることを見出している.触媒反応活性種を固定化することができれば,本系における有望な触媒材料候補となる.そこで,OCF合成で得られた知見を活かし,これらの材料中に単核の金属活性種を埋め込む手法を検討する予定である.
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