研究課題/領域番号 |
21K14497
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鈴木 弘朗 岡山大学, 自然科学学域, 助教 (20880553)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 遷移金属カルコゲナイド / 化学気相成長法 / 光電子物性 / 一次元ナノ構造 / 光電子デバイス / ナノリボン / 自己制限成長 |
研究実績の概要 |
本年度は,一次元構造をもつ遷移金属ダイカルコゲナイドのWS2の結晶構造解析,成長機構,光電子物性について調査を行った.以下の研究から,WS2ナノリボン構造を (1) 一次元WS2の結晶構造解析:研究開始当初,単層WS2に由来する光学特性をもつ一次元構造の物質が得られていたが,その結晶構造は不明であった.そこで透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて構造解析を行った.サンプル直上からの走査型TEM(STEM)観察と元素分析を行った結果,酸化タングステン(WxOy)ナノワイヤの存在が明らかになった.また,サンプル断面のSTEM像からWxOyナノワイヤ上に単層のWS2ナノリボンが成長していることを明らかにした. (2)WS2ナノリボンの成長機構:WS2ナノリボンの大面積ラマン,フォトルミネッセンス(PL)スペクトルマッピングを行った結果,非常に高い歩留まり単層が成長していることが明らかになった.また,合成温度に対して,非常に広い範囲で単層が得られることが分かった.この単層が選択的に得られる現象を,WS2のWxOy上における自己制限成長(Self-limitning growth)によるものとしてモデル化した. (3) WS2ナノリボンの光電子物性:WxOyナノワイヤ上のWS2ナノリボンの光電子物性を,光学特性と電気伝導特性から調査した.偏光レーザ光を用いたラマン,PL測定から,WS2ナノリボンの一次元構造に由来する偏光特性を観測した.また,高空間分解のPL測定から,ナノリボンエッジと内部のPL特性の違いを発見した.またWxOyナノワイヤからのドーピングが示唆された.さらに,電気伝導の温度依存から導出した活性化エネルギーからも,WS2ナノリボンがナノワイヤ上でドーピングの効果を受けていることが推測され,PLの結果と一致した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終的な目標は,一次元構造の遷移金属ダイカルコゲナイドの合成条件最適化,成長機構解明,光電子物性解明である.今年度は,再現性に課題が残っているものの,高歩留まりな合成条件の探索を達成している.さらに,構造解析を通して成長機構に関して重要な情報を得ることができ,自己制限成長によるWS2ナノリボンの成長モデルを提唱した.さらに,光電子物性についても詳細な調査を行い,WxOyナノワイヤ上に成長したWS2ナノリボンの電子状態に関して,重要な知見を得た.これらの理由から,本年度は当初の計画以上に進展していると評価する.
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今後の研究の推進方策 |
WxOyナノワイヤ/WS2ナノリボンの合成の再現性向上のため,最適合成条件の探索,プロセスフローの改良,合成装置の改善を進めていく.また現状で,ナノワイヤ上のWS2ナノリボンを孤立化させることは容易ではなく,発展的な課題である.機械的な剥離によって,極一部のナノリボンの剥離を確認しているが,歩留まりは非常に低い.今後,ナノワイヤからのナノリボンの剥離と,その本質的な物性の解明を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,既存設備が共用できたこと,研究材料が他の研究テーマと共同利用できたこと,また消費が少なかったことにより,予定よりも使用額が少なかった.また,半導体不足の影響で,購入したい物品の納期が間に合わなかった.次年度では,購入を計画している物品の導入を計画的に行い研究を円滑に進めていく予定である.旅費に関して,新型コロナの影響で,使用することができなかった.次年度では現地開催の学会発表に参加する予定である.
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