研究課題
本年度は、(i)リボン状の遷移金属カルコゲナイド(TMC)原子細線集合体の合成と(ii)TMC原子層ナノリボンの創製に成功した。具体的には、化学気相成長法(CVD)を用い、反応条件の変えることによりWTe原子細線の集合体のサイズと形を制御し、長さ100ミクロン以上の長いバンドルを作った。その試料を利用し、磁場かけながら低温測定を行い、二次元電子ガスのような電気伝導特性を初めて観察した。更に、カルコゲン(SやSeあるいはTe)雰囲気下で合成した原子細線の集合体のアニーリングにより、WTeの構造変化が起こり、結果として1次元ジグザグ型のWS2、WSe2やWTe2原子層ナノリボンに変換することを達成した。透過型顕微鏡(TEM)の断面観察結果から、作製したTMCナノリボンが親の集合体の形状に大きく支配され、縦型と横型リボンになることがわかった。また、偏光ラマン分光の結果により、合成したナノリボンが通常の2次元シートと違った光学異方特性を示し、将来1次元オプトエレクトロニクスへの応用を示唆した。上記得られた知見を関連分野の国際・国内会議で発表した。なお、研究成果が多くの注目を集まり、低次元材料関連の権威学会であるRPGR2021学会において最優秀ポスター賞のGold Medalを受賞した。さらに、研究結果を論文にまとめ、応用ナノ材料分野の雑誌代表の一つである「ACS Applied Nano Materials」雑誌に掲載され、同時にSupplementary表紙としても選出された。また、アメリカ科学振興協会(AAAS)のオンラインニュースサイト「EurekAlert!」に解説記事が掲載された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初は、遷移金属カルコゲナイド(TMC)原子細線集合体の制御合成とそれらの物性を探索する予定のみであったが、予想外の結果として新たなTMC原子層ナノリボンの位置・構造の制御に使える合成手法を発見した。この手法は、大面積のTMCナノリボンネットワークや配列試料の作製にも利用できる。これらの研究成果は、論文としても掲載されている。
今後はWTe試料の質量や均一性の向上にむけ、いくつの成長パラメータを調整していく。特に、合成方法と原料の変えることで、高品質な原子細線を作る。具体的に、固体原料の代わりに液体状の前駆体を使い、基板上のコーティングや原子層堆積法(ALD)や高温合成法を試し、成長に余計な原料の残留を抑えながら、高い結晶性を持つ試料を合成する。また、基板の表面状態が成長の元となる成長核の形成を大きく影響するため、合成前の基板の洗浄や加熱やオゾン修理を行うことで、より均一な核を基板上で分布することを目指す。なお、WTe以外の他の原子細線種類の合成も開発していく。特に分子線エピタキシー法(MBE)を用いてWS、WSe 原子細線の合成を試す。そのほか、カルコゲン原料の変えることで、よりマイルドの条件で、WTe細線の構造を維持ながら中のTe原子のみを置換することが可能かどうかを探索する。もし順調で進むことができたら、その違う種類のものの特性を比較し、第一原理理論計算と合わせて原子細線専有の新規物性を引き出す。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
ACS Applied Nano Materials
巻: - ページ: -
10.1021/acsanm.2c00377
巻: 5 ページ: 1775~1782
10.1021/acsanm.1c03160
https://www.comp.tmu.ac.jp/nanotube/news.html
https://www.eurekalert.org/news-releases/941258