研究課題/領域番号 |
21K14500
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
寺澤 知潮 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究職 (90772210)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グラフェン / プロトン / 水素 / 同位体 |
研究実績の概要 |
単原子厚さの新材料であるグラフェンを水素イオンが透過することが知られている。しかし、水素イオンがグラフェンのどこをどのように透過するかという機構には複数の学説があり決着が付いていない。これは、水素イオンの透過が水中や水素イオン伝導膜中で研究されてきたため、水素イオンの透過の素過程を直接観察できないことが原因の一つである。そこで本研究はグラフェンに水素イオンビームを真空中で照射し、水素イオンの運動エネルギーやグラフェンの温度が透過能に与える影響を明らかにすることで、水素イオンの透過機構を解明することを目的とする。 研究目的の実現のため、本年度は低速でエネルギー分解能の良い水素イオン照射装置の開発に取り組んだ。既存の水素イオン照射装置で低速の水素イオンを照射すると(1)水素分子のイオン化によってH+の他にH2+やH3+といった水素分子イオンが混入する(2)エネルギー分解能が5eV程度に留まりグラフェンの水素イオン透過過程において理論的に予測されたエネルギー障壁~1eVよりも大きいという2つの問題があった。 本研究では直交する電場と磁場を用いるWien型の速度フィルタおよび静電半球型のエネルギー分析器を併せ持つイオン照射装置を新たに開発した。その結果、質量数1のH+を質量数2のH2+から分離できる質量分解能および0.4eVのエネルギー分解能を持つイオン銃の開発に成功した。以上の結果は、本装置がグラフェンの水素イオン透過機構の解明に十分な性能を有していることを示している。これらの成果は国内学会として日本表面真空学会および国際学会としてALC21で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の実施のために必須である低速で質量・エネルギー分解能に優れた水素イオン照射装置の開発に成功した。特に本年度においては複数の電極を独立にプログラム制御することでイオン透過実験を現実的な時間で実施できるように改良した。装置開発について学会発表を行うとともに論文も投稿中である。 また、本装置を用いて実際にグラフェン試料および対照試料への水素イオン照射の予備実験も開始し、グラフェン試料を透過する水素イオンを検出した。 以上のことから、本研究は、おおむね順調に進展している。と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
グラフェンへの水素イオンの照射の運動エネルギー依存性および温度依存性を調べることで、水素イオンがグラフェンをどのように透過するのかを明らかにする。特に水素イオンの透過がグラフェンの温度に依存する場合は、水素イオンがグラフェンへの吸着を経て透過していることが考えられる。その場合には温度依存性から活性化障壁を求め、吸着機構の議論を行う。 また、意図的に欠陥を作り出したグラフェンにおいても同様の実験を行い、水素イオンがグラフェンのどこを透過するのかを明らかにする。特に結晶粒界と点欠陥を作り分けた試料において、水素イオンの透過機構を解明する。 さらに、重水素イオンを用いた系で同様の実験を行い、水素イオンと重水素イオンの透過機構や、同位体分離能についても議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、国内外の学会や研究打合せが、対面方式からオンライン方式に変更となったため、これらの参加に係る旅費や参加費の支出額が予定よりも少額となったことから次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、次年度分研究費と合わせて、実験に係る費用や成果発表に係る費用として使用する。
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