研究実績の概要 |
炭素原子六員環の単原子厚さのシートであるグラフェンは、水素イオンが透過する際に同位体効果を示す。すなわち、軽水素イオンが重水素イオンよりも早くグラフェンを透過する。しかし、これまでの研究ではグラフェンを水素イオン伝導体中に担持した状態で水素イオン透過能が評価されていたため、グラフェンの本質的な水素イオン透過機構の詳細は明らかにされていなかった。そこで本研究では真空中でグラフェンに水素イオンビームを照射し透過する水素イオンを検出することでグラフェンの水素イオン透過機構を解明するという新たな研究アプローチを提唱した。 具体的には、低速・単色・質量選択の全てを兼ね備えた水素イオン照射装置を開発した。水素イオンビームは20eVの低速で生成した。さらに、エネルギー分解を行う半球形アナライザによって0.4eVのエネルギー分解能を達成した。また、質量選択を行うウィーンフィルタを搭載し水素分子のイオン化によって生じるH+,H2+,H3+のイオンを分離した。 本研究で得られたイオンビームをグラフェンに照射したところ、グラフェンを透過した水素イオンの検出に成功し、グラフェンへの低速水素イオン照射による透過機構の解明という本研究の提案の妥当性が明らかになった。また、グラフェンへ照射した水素イオンは透過確率が10^-2以下であることを見出した。水素イオンがグラフェンを透過する際のエネルギー障壁は0.5eV程度と見積もられており、本研究で得られたイオンビームは水素イオンの透過機構を議論するのに十分なエネルギー分解能であることが確認された。
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