昨年度は非常に薄いAlNを下地層として導入したAlN系固溶体薄膜においてウルツ鉱相の配向性や結晶性の向上が確認された。そこで本年度は、MgとWを同時添加したAlN(MgWAlN)薄膜の作製において、同様の手法を適用した。MgWAlNではこれまでに第一原理計算で、MgWの固溶量が多くなるほど圧電特性が向上することがわかっている。しかし、AlNの下地層が無い状態で薄膜を作製した場合、圧電定数はMgWの添加によってもほとんど向上しなかった。この原因の一つとして、ウルツ鉱相の結晶性や配向性の低下が考えられる。そこで、MgWAlN薄膜の下地層に非常に薄いAlNを導入したところ、ウルツ鉱相の結晶性や配向性が向上する傾向が確認された。一方で圧電定数に関しては第一原理計算で予測されたような性能を得ることはできなかった。この原因には配向性や結晶性以外の他の因子が影響していると考えられる。その要因の一つに分極の分布が挙げられる。AlNの先行研究ではウルツ鉱の結晶構造が上下逆転した分布を示した場合、圧電応答が打ち消されてしまうことがわかっている。このような分極分布の乱れがMgWAlNでも起きている可能性がある。実際に圧電応答顕微鏡による観察で、不均質な分極分布の兆候が確認された。下地層の導入によってMgWAlN薄膜の結晶性や配向性に向上は見られたものの、高い圧電特性を得るために分極分布を均質にする必要性があることがわかった。分極分布は反応性スパッタリングにおける製膜条件によって変化することが先行研究によって報告されているため、今後は製膜条件を検討する必要があると考えられる。
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