がんは本邦における死因の27%強を占める最大の要因である。原発巣で発生したがんは腫瘍血管と呼ばれる毛細血管を誘導し、栄養を得て増殖し、周囲の組織に浸潤し、最終的には腫瘍血管を通じて他の臓器へと遠隔転移する。がんによる死亡の約90%が転移によると言われている。そこで本研究では、がんの転移過程の解明や抗がん剤開発を加速するため、がんの転移過程を再現可能な3次元組織灌流システム「3Dがん転移模倣システム」を開発し、その有用性を実証することを目的としている。2023年度は2021年度に構築方法を確立した血管網を有するがん組織を用いて、T細胞免疫療法の試験を実施した。まずT細胞を灌流するためにシステムの改良を実施した。灌流液中のT細胞濃度を生理学的濃度に維持するためには細胞の沈降を防止する必要があり、このためにシステム全体をオービタルシェーカー上に設置し、揺動下で培養することとした。さらに揺動の影響による組織の破損を防ぐために組織を外科用接着剤で被覆することで歩留まりを改善した。このように改良したシステムを用いてT細胞の灌流培養を実施したところ、T細胞のがん組織への浸潤を再現することに成功した。また、そのT細胞ががん細胞に接着している様子や、血管外漏出したがん細胞と接着して細胞塊を形成している様子などを観察することに成功した。これらの結果は、本システムががん免疫に関する研究や、T細胞免疫療法の評価に利用可能であることを示唆している。
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