研究課題/領域番号 |
21K14520
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中野 貴文 東北大学, 工学研究科, 助教 (90839185)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / ワイル磁性体 / ホイスラー合金 / 異常ホール効果 / 磁気センサ |
研究実績の概要 |
令和3年度は主に,スパッタリング法を用いて,ワイル磁性体の候補材料である,Ti系ホイスラー合金およびMn系ホイスラー合金の薄膜作製に取り組んだ. Ti系ホイスラー合金については,格子整合性の観点から,その基板としてGd3Ga5O12(GGG)単結晶を選択した.はじめに,GGG基板自体の平坦性を確保するために,基板加熱条件の最適化をおこなった.その結果,900℃で大気中熱処理をおこなうことで,明瞭なステップ・テラス構造を有する原子層レベルで平坦な表面(平均粗さ0.1 nm程度)を得ることに成功した.つづいて,そのGGG基板上に,Ti系ホイスラー合金のバッファ層として利用する,Mg2Ge薄膜を作製した.基板加熱条件を系統的に変えて成膜をおこなったが,これまでのところ,単結晶薄膜の作製には成功しておらず,引き続き成膜条件の最適化が必要である.また,本研究で扱うTi系ホイスラー合金にはTi2MnAlを選択し,作製した薄膜の組成分析の結果から,おおよそ狙い通りの組成が得られていることを確認した. Mn系ホイスラー合金については,単結晶MgO基板上に,Mn2TiAlの薄膜作製をおこなった.はじめに,各材料の薄膜の組成分析をおこない,おおよそ狙い通りの組成が得られていることを確認した.つづいて,単結晶のMn2TiAl薄膜を作製するために,その基板加熱条件の最適化に取り組んだ.300℃から700℃まで基板加熱温度を変えて成膜をおこなったが,これまでのところ,単結晶薄膜の作製には成功しておらず,引き続き成膜条件の最適化が必要である.また,作製した薄膜の磁気特性も評価したが,有限な磁化は観測されておらず,Mn2TiAlの規則構造は得られていないと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では,令和3年度内に,Mn系あるいはTi系ホイスラー合金を用いたワイル磁性体薄膜の作製条件を確立し,元素置換による電子構造・磁気構造の制御にも取り掛かる予定としていたが,現時点では遂行できていない.これまでに,Mn系およびTi系のいずれのホイスラー合金においても,単結晶基板上へのエピタキシャル成長に成功しておらず,その成膜条件の確立が課題となっているためである.いずれも,過去に実験の例がない材料系であり,原子規則度の高い薄膜の作製は特にチャレンジングであることは予想できる.これまでに実施した基板加熱条件の最適化の他にも,投入電力やプロセスガス圧,下地層の選択など,成膜条件の検討範囲が未だ不十分であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の開始以降,研究代表者は理論系の専門家と議論を重ねており,本研究で着目した材料系であるTi2MnAlは,これまでに検討してきたMg2Ge下地層との組み合わせでワイル磁性体となりうるという理論的な裏付けを得ている.したがって,令和4年度においても,Mg2GeおよびTi2MnAlの薄膜作製に注力する.また,Mn系ホイスラー合金の薄膜作製にも,引き続き取り組む.エピタキシャル成長を実現するために,これまでに当研究室である程度の実績があるMn2VAlおよびMn2VGaの単結晶薄膜をベースとして,Mn2TiAlとのコスパッタによる成膜も試みる.この実験手法は,次の計画である元素置換による特性の制御にも,そのまま利用可能である.それぞれの材料系で単結晶薄膜の作製が困難である場合は,多結晶薄膜の利用も視野に入れて研究計画を遂行する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は,当初予定していた学会等に参加できず,主に旅費に配分する予定だった経費が残ったため,次年度使用額が生じた.令和4年度も,引き続き学会等への参加を計画しており,次年度使用額はこちらに充てる予定だが,開催状況次第では物品費およびその他の用途に振り分けて使用する.
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