研究課題/領域番号 |
21K14526
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山口 皓史 京都大学, 基礎物理学研究所, 研究員 (50898236)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | リザバー・コンピューティング / 磁気トンネル接合素子 / グラフェン |
研究実績の概要 |
令和3年度は、本研究題目にある拡張スピン流を利用するために必要な「出力先」に重点を置いて研究を行った。その理由として、拡張スピン流は複数の自由度を組み合わせた流れであるが、一般に多くの自由度が関連した系や相関のある系に複雑に作用することが考えられるためである。そこで、1. 複数の自由度がある系におけるリザバーコンピューティングの性能、2. 量子計算を念頭においた物質設計の2点について調べた。 1. 複数の自由度がある系におけるリザバーコンピューティングの性能について、従来のスピントロニクス素子を用いたリザバー・コンピューティングでは、磁化が動かない固定層と磁化が動く自由層の、磁性層2層の組み合わせが用いられてきた。この組み合わせでは有効的な力学変数は2でカオスにはならないため、リザバー・コンピューティングではカオスの縁で性能が高くなることが示唆されていることから、リザバー・コンピューティングに適した素子とは言えない。解決策としてこの素子を複数結合することで性能の向上を図ったものがあるが、実際のデバイス作成が困難である。そこで本研究では、単一の素子で積層方向に磁性層の種類と層数を変えることで、リザバー・コンピューティングの性能が向上することを示した。自由層2層を組み合わせた素子と、自由層2層に固定層を1層加えた素子を調べ、従来型の素子に比べ性能が向上していることを理論的に示した。この研究結果は特許として出願中である。 2. 量子計算を念頭においた物質設計として、グラフェンを基に炭素原子の配列を制御することで、量子計算に利用できる、スピン1のハイゼンベルク鎖が作り出せることがわかった。具体的には、第一原理計算から電子の低エネルギーハミルトニアンを構築し、摂動計算によって有効的なスピン相互作用を導出した。この研究結果は論文としてすでに出版されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
特許出願の準備に時間を費やしたこと、それに伴い論文化に時間を要したことで、研究の進捗にやや遅れが生じた。また、本研究では計算機を使用するが、プログラムの技術的な理由から、高速化を実装する前までは計算にかなりの時間を要していたため、計算結果が得られるまでに遅延が生じていた。現在は高速化によって、効率的に数値計算ができるため、比較的滞りなく計算が行えるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針として、拡張スピン流自体の性質、特に輸送係数の計算と秩序状態の運動方程式の導出を行う。 拡張スピン流の輸送係数の計算として、まずは具体的に磁化がある決まった周期で、格子上に規則を持って並んでいるクラスター型の磁化配置(多極子)の場合に、クラスターの既約表現と輸送係数との間の関係について調べる。特に、磁化配置に依存して出力が変化する、(広義の)磁気抵抗効果に対応する効果が生じるセットアップを提案する。次に、より一般的な状況を考えるために、(連続)対称性と保存量との関係に着目し、電荷とスピン以外の保存流が存在する(定義できる)系を探索する。そのような系を見つけた後、輸送係数の計算を行い、スピントロニクス応用が可能かを検証する。 秩序状態の運動方程式は、本研究課題の申請時には経路積分の作用からの定式化としていたが、この方法には計算上の困難があるため、まずは見通しのよい方法で「大雑把に」導出を行う。秩序パラメータの時間微分から運動方程式を見積もり、その後経路積分からも定式化を行うことで、効率的に計算を行うようにする。同時に、スピントロニクスにおけるスピントルクに対応する、外力による制御についての研究も行う。現象論的に考察が可能であればまずは行い、その後に微視的モデルから正確な計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は計算機を購入予定であったが、現在の数値計算内容では研究所内にある計算機システムの利用で問題なく研究遂行ができたため、計算機代が生じなかった。また、新型コロナウイルスの関係で出張等の旅費が少なくなった。 令和4年度は所属も変わり、所属機関の計算機システムの能力や使用可能時間によって、計算機の購入が必要である可能性が大いにある。また、出張回数も増えることが予想されるため、十分な予算の確保が必要であると考えられる。
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