研究課題
本研究では、大気環境中でのナノマテリアルの電荷移動の活性化の起源を解明し、電気化学的な制御によって演算素子としての機能抽出を行うことを目的とする。導電性高分子の一種であるスルホン酸ポリアニリン(SPAN)を滴下、乾燥させるだけの簡便な方法により、高密度かつランダムなナノマテリアルネットワークを作製した。このネットワークを多電極間に形成させデバイスを作製し、電流ー電圧特性を調べたところ、湿度の上昇に伴い電流値が上昇し、ヒステリシスな電気特性が得られることを発見した。電気化学インピーダンスの検討結果から、大気中の湿気の影響でSPANの酸化還元反応およびイオン由来の電荷移動が促進されたためと考えられる。さらに入出力間の応答の関係性を調べたところ、出力電極を変えることで応答性が変化することが明らかとなった。これは、電極とネットワークの界面における電気化学反応やネットワーク内の電荷輸送経路が電極ごとに異なるためと考えられる。上記のような出力応答の違いを利用して出力信号を上手く足し合わせ、物理リザバー計算を行うことで、目的に応じた学習結果を得ることが可能となった。本研究では物理リザバー演算の性能評価のデモンストレーションとして0から9までの数字音声の分類を行ったところ。音声の入力時間等のパラメータを最適化することで7割近くの音声を正しく分類することに成功した。有機分子を用いた物理リザバー計算によって音声認識を行ったのは本研究が初めてである。以上の結果から、有機分子ネットワークを物理リザバー計算に用いて、時系列情報処理を実現したといえる。生物の脳においても、本研究と同様に有機分子ネットワークの電気化学反応を用いて信号伝達および情報処理が行われているため。次世代情報処理デバイスの創製及び実装が期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予定では本年度でプロトン注入によるポリアニリンの非線形電気特性の起源を解明することを目標としていた。実際は非線形電気特性が電気二重層の形成及びイオン由来の電荷移動に起因することを明らかにしただけでなく、リザバー演算のシステム実装や音声認識の実施を行った。これにより、プロトン駆動型の演算機能の付与に成功したといえ、想定以上の研究の進展を得た。
引き続き研究計画に従い、ポリアニリンへの大気中のプロトンの注入によるナノマテリアル演算素子としての性能向上に関して検討を進める。具体的にはポリアニリンへの塩基の注入量を系統的に変化させ、ポリアニリンのドープ状態と演算機能の関係を検討し、演算処理の最適条件を明らかにする。さらにリザバー演算素子としての性能評価指標として、画像認識など他のデモンストレーションを実装する。
コロナ禍のため当初支出予定であった学会渡航費が不要になったため。
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Advanced Materials
巻: 33 ページ: 2102688
10.1002/adma.202102688