研究課題/領域番号 |
21K14529
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
今井 正樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究員 (10796329)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピンメカトロニクス / バーネット効果 / NMR / スピントロニクス / フェリ磁性 |
研究実績の概要 |
本研究では力学回転と磁性体中の角運動量の相互作用によって引き起こされるバーネット効果を用いたフェリ磁性体の角運動量補償温度の探索および、NMRを用いた角運動量補償物質の磁気ダイナミクス現象の測定を目指している。 R3年度は主としてバーネット効果測定装置の測定感度の向上および、温度可変測定の自動化に取り組んだ。バーネット効果とは回転する磁性体中のスピン等の角運動量が回転軸方向に揃うことで磁化する現象である。バーネット効果測定装置では、回転した試料からの漏れ磁場を磁気センサーで読み取り、試料の回転による磁化を測定している。漏れ磁場測定用の磁気センサーを光ポンピング磁力計(感度<15fT/√Hz 3-100 Hz band)に置き換えた。その結果、従来の装置に比べて測定の感度が1桁向上した。センサーの感度よりも磁気ノイズの方が大きいため、さらに環境磁場の変動を取り除くことでもう1桁程度の感度の向上が見込まれる。 バーネット効果測定装置では試料をエアーモーターで回転させている。温度可変バーネット効果測定装置では駆動ガスに乾燥窒素ガスを用いている。その窒素ガスを液体窒素で冷却した銅製の熱交換器を通すことで冷却し、冷温での回転を実現している。実験では47L乾燥窒素ガスボンベを1-2時間で1本消費する。ボンベ交換のため立ち会う必要があり、温度変化を自動で測定することが出来なかった。窒素ガスの回収および再利用するシステムに切り替え、ガス乾燥機を導入することで数日間の連続運転が可能となった。 これらの装置を用いて希土類鉄ガーネット試料の角運動量補償温度を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初の予定通り、バーネット効果測定装置の改良を進めることができたため、おおむね順調に進展している。と判断する。具体的には、測定感度を向上させるために、従来用いていたフラックスゲート磁気センサー(最高感度1nT)を光ポンピング磁力計(感度<15fT/√Hz 3-100 Hzband)に置き換えた。複数の磁気シールドを用いることで、環境磁場を光ポンピング磁力計が作動する許容磁場値(<50nT)に抑え、センサーが正常に作動することやブランク試料測定においてセンサー値のふらつきが従来の30pT程度から1pT程度まで減少したことが確認できた。また、磁気シールドの微動がセンサー位置での磁場変動の原因の1つであることが判明したため、磁気シールドの焼鈍を行い、性能を回復させることでさらにノイズが減少すると期待される。温度可変バーネット効果測定装置では空気回転モーターを駆動するガスとして窒素ガスボンベを使用しており、1-2hで47Lボンベを消費するため自動測定が困難であった。この問題を解決するために窒素ガスをガスバックに回収し、コンプレッサーで圧縮し再利用するシステムを構築した。しかし、プローブの密閉性が悪く周囲の空気から水分を引き込んでしまい、ガスを冷却する熱交換器内で氷が詰まってモーターが回らなくなる問題が発生したが、モレキュラーシーブスを用いた圧縮空気乾燥器を作成して導入することで、水分による管の閉塞を防ぎ、数日間の連続測定を可能とすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
測定装置の改良が当初の計画どおりに順調に進んでいるため、今後はフェライト試料を始めとした角運動量補償が期待される磁性体の試料作成およびバーネット効果測定を行っていく。また、既に角運動量補償温度を測定した希土類鉄ガーネット試料に関しては、NMR測定を行い、角運動量補償での磁気ダイナミクスの微視的な研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に購入を予定していた、本研究において必須となる光ポンピング磁力計を別の財源で購入することが可能となったため、当初計画に比べて実支出額が少なかったことから次年度使用額が生じた。次年度使用額は、次年度分研究費と合わせて、性能劣化が進んでいる磁気シールドの焼鈍加工費用や劣化したバーネット効果測定装置のプローブの更新費用として使用する。
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