本研究では電子顕微鏡において極低線量下での観察のような量子雑音が支配的となる像観察での像質向上を目指し、雑音を低減可能な空間電荷制限下で動作する薄膜フォトカソード電子銃の開発を行った。また、本薄膜フォトカソード電子銃による電子線の生成およびその測定をした。 1)薄膜フォトカソードの開発:薄膜フォトカソードはパルスレーザー堆積法を用いて透明基板上に成膜した。ここで薄膜フォトカソードの材料には低仕事関数である六ホウ化ランタンを用いた。薄膜の構造評価を走査透過電子顕微鏡により行い、主に多結晶として成膜されることがわかった。これに加えてエネルギー分散型X線分光測定を実施し、本薄膜のボロンとランタンの組成比がおよそ6:1となることがわかった。以上のように透明基板上に六ホウ化ランタン結晶薄膜を成膜することに成功した。 2)電子銃評価用装置の構築:薄膜フォトカソードの光電子放出の評価に向けて電子銃を搭載する真空チャンバーを立ち上げ、加熱機構付き電極を新規に作製した。電極を搭載した真空チャンバーは十分なベーキングにより極高真空に到達できることがわかった。また、光電子放出に向けレーザー照射のための光学系を構築し、406nmの波長のレーザー光を集光してフォトカソードの裏面に照射可能となった。光電子の検出に向けて本真空チャンバーに搭載可能なSi検出器を構築し、その動作を確認した。 3)光電子放出実験:薄膜フォトカソードを上記の電極付き電子銃評価チャンバーに搭載した。超高真空下で薄膜フォトカソードの裏面からレーザーを照射しかつカソードに電圧を印加することで光電子放出を確認した。ここで量子効率はこれまでに報告されているバルクでの測定結果と同等な値が得られた。また光電子放出の加速電圧依存性を調べ、空間電荷効果による放出電子数の減少を測定した。Si検出器での光電子検出実験も行い、その応答が確認された。
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