研究課題/領域番号 |
21K14536
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石部 貴史 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (50837359)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 熱電変換 / シリサイド半導体 / ディラック電子系 / 超格子 / 界面制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、代表者が培ってきた輸送電子の平均エネルギー増大、及びナノ構造界面フォノン散乱の知見を駆使することで、電子・フォノンの二粒子同時制御を可能にするSi基板上シリサイド超格子薄膜熱電材料を創製する。具体的には、e-CoSi1-xGex/e-CoSi超格子薄膜において“Dirac電子の超高電気伝導率”と“局在Heavy band位置の意図的制御による高ゼーベック係数”を実現して熱電出力因子増大を、さらに合金・界面フォノン散乱誘発による熱伝導率低減を同時達成することを目的とする。 令和3年度は、成長温度の緻密な制御により、e-CoSi1-xGex単層膜が作製可能な条件を絞り込み、その熱電特性を明らかにした。x=1の場合、金属誘起結晶化が生じるため、Ge量の減少が必要であることが分かった一方で、x=0の場合、成長温度を低温にすることで単一相からなるe-CoSi薄膜をSi基板上に形成可能であることが分かった。本e-CoSi薄膜において、結晶性向上に伴ってキャリア密度が低減し、ゼーベック係数が増大する傾向が観測された。その際、高電気伝導率は維持されており、結果的に低キャリア密度化により熱電出力因子は増大する傾向にあった。熱電特性の温度依存性を評価したところ、電子輸送は、電子-フォノン相互作用に律速されている可能性が高いことが示唆された。今後、フェルミエネルギー位置を緻密に制御することで熱電出力因子を最適化し、その電子輸送機構解明を行い、最終的には超格子薄膜化を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
e-CoSi1-xGex単層膜の作製条件を探索し、x=1の場合は金属誘起結晶化が生じるため、Ge量の減少が必要であるという知見を得た。一方で、x=0の場合、成長温度を緻密に制御し、低温下にて単一相のe-CoSi薄膜がSi基板上に成長することを明らかにした。本薄膜の熱電特性を測定したところ、結晶性向上に伴うキャリア密度低減によって、高電気伝導率を維持しながらゼーベック係数が増大した。この結果、キャリア密度低減に伴い、熱電出力因子が増大する傾向を観測した。熱電特性の温度依存性より電子-フォノン相互作用が有効に働いている兆候が見られ、波数空間エネルギーフィルタリング効果が電子輸送に大きく影響していることが示唆された。このように構造形成から熱電特性測定まで予定通り進み、電子輸送機構の理解の道筋も得られたため、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度、成長条件の最適化によりe-CoSi1-xGex単層膜(x=0)の形成に成功した。令和4年度はまず、キャリア密度制御を行うことで、フェルミエネルギー位置をDirac point近傍で調整することを狙う。フェルミエネルギー位置の緻密な制御が重要であるため、Fe, Ni, Al等の様々な添加元素、及びそれらの添加量を検討し、熱電出力因子の最適化を図る。当面、e-CoSi1-xGex単層膜(x=0)の高性能化と電子輸送機構理解に注力する。熱電出力因子値が不十分な場合、Geの最適量を検討することでバンド構造を変調してこの問題に対処する。これらの単層膜の熱電特性を明らかにしたのち、超格子薄膜に展開し、構造形成条件の探索を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、e-CoSi1-xGex単層膜のアニール条件を探索する上で、アニール装置用のターボ分子ポンプを購入予定であったが、特別なアニール処理を施す必要なく形成できたため、ターボ分子ポンプを購入しなかった。次年度、フェルミエネルギー位置制御やバンド構造変調のため、Fe,Ni,Al等のドーパント元素添加やGe量の最適化をそれぞれ考えている。これらの元素を導入した際、多元素材料の結晶化を促すために高真空下でのアニールが必要になると予想される。その際、本年度購入予定であったターボ分子ポンプを購入してアニール装置整備を考えている。
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