本研究では、電子・フォノンの二粒子同時制御を可能にするSi基板上シリサイド超格子薄膜熱電材料を創製する。具体的には、ε-CoSi1-xGex/ε-CoSi超格子薄膜において“Dirac電子の超高電気伝導率”と“局在Heavy band位置の意図的制御による高ゼーベック係数”を実現して熱電出力因子増大を、さらに合金・界面フォノン散乱誘発による熱伝導率低減を同時達成することを目的とする。 令和5年度は、昨年度までに形成してきたε-CoSi薄膜の熱伝導率測定、及び新しくGe-richなエピタキシャルε-CoSi1-xGex薄膜/Siの成長技術確立に取り組んだ。エピタキシャルε-CoSi薄膜の格子熱伝導率は3.5 W/mKと比較的低い値であることがわかった。これにより、当初の予定であった超格子ではなく、合金薄膜のほうが高い熱電性能を得られると考え、Geを添加したε-CoSi1-xGex薄膜にフォーカスした。基板表面にCoGe核を少量形成することでε-CoSi1-xGex薄膜/Siのエピタキシャル成長に成功した。本薄膜形成技術は核を用いた新手法であり、他材料への展開も期待できる。本薄膜の出力因子は、ε-CoSi薄膜の1/2程度であったものの、合金散乱の増強のため格子熱伝導率は、<2.5 W/mKとε-CoSi薄膜のそれよりも低かった。今後、Ge量の最適化により最高性能のε-CoSi1-xGex薄膜/Siの創出が期待できる。 一方、ε-CoSi1-xGex薄膜のCoを他元素Teで置換した材料では、>35 microW/cmK2の出力因子、0.7 W/mKの格子熱伝導率を達成した。結果として、目標であった参考ZT~0.3 @300 Kに到達した。このように、Si基板上に高性能薄膜熱電材料の創製に成功したことで、IoT、IoHセンサ用電源の実現が大いに近づいたと言える。
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