研究課題/領域番号 |
21K14538
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
中島 宏 大阪公立大学, 大学院工学研究科, 特任准教授 (10885560)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 電子回折 / 磁性体 / 強誘電体 |
研究実績の概要 |
本研究では、小角電子回折の光学系を構築し、磁性材料および強誘電体の観察に応用することで、これらの物質の微細構造の解明を目指している。磁性体の磁区構造の解析では、磁気散乱による透過波の分裂を観察するために、長距離のカメラ長を用いた光学系が必要である。対物レンズをオフにした状態で、約20~300mのカメラ長を用いることができる光学系を構築した。明瞭な回折スポットを観測するために、照射系(コンデンサーレンズ)を最適化した。構築した光学系を用いて、磁性材料および強誘電体材料の微細構造観察を実施した。磁性材料観察では、構築した光学系を軟磁性合金の観察に適用した。非晶質合金を結晶化させたナノ結晶軟磁性材料は、優れた軟磁性を示すことから注目されている。Fe-Si-B非晶質軟磁性材料は結晶粒が粗大化しやすいという問題がある。先行研究によりCu, Moを添加すると結晶粒の微細化が起こり軟磁性特性の向上に貢献していることが明らかになっている。そのため、Fe-Si-B-Mo-Cu非晶質合金(Fe81.8Si4B14Mo0.2Cu)に着目し、非晶質軟磁性合金の磁気微細構造を明らかにし、熱処理による結晶化過程での結晶粒サイズと磁気特性の相関について調べた。強誘電体の観察では、Tiを置換したHoMnO3の微細構造観察を実施した。電子回折図形を取得したところ、Tiを添加することで、強誘電相と常誘電相が混在した微細構造が結晶内に形成されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小角電子回折の光学系を構築することができており、開発した電子光学系をカーボンの回折格子を用いて評価している。回折スポットを適切な分解能・ピクセルで観測するために、中間レンズおよび対物ミニレンズの値に対してカメラ長がどのように変化するかを導出した。構築した光学系を、軟磁性材料の観察に適用した。熱処理前のFe81.8Si4B14Mo0.2Cuは、電子回折図形において明瞭なハローパターンが観察され、非晶質構造を有していることを確認した。磁気ドメイン構造を可視化した結果、200~500 nm程度のサイズの磁区が生じており、90°磁区が多いものの、非晶質構造を反映して湾曲したドメイン壁も観察された。本試料を熱処理することで5~25nm程度の結晶粒が生成し、Y字型の磁区構造が形成することが判明した。小角電子回折図形を取得することにより、透過光の分裂を観察することができ、磁化の大きさを見積もった。分裂した散乱波を絞りで選択することにより、フーコー像として磁区の状態を可視化できた。フーコー像により、フレネル像では見分けることが難しい磁壁の存在を明瞭に観察できた。熱処理後の試料は、処理前に比べて保持力が減少しており、軟磁気特性が向上していることが確認できた。また、強誘電ドメインからの電場に由来する散乱を観測するために、Tiを置換したHoMnO3の強誘電ドメインの形態を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、構築した光学系を用いて磁気散乱を観測することで磁気ドメイン構造の形態を明らかにする。さらに、観察に最適な露光条件・撮影時間を評価する。磁場を印加するために対物レンズを使用する必要がある。対物レンズの励磁電流を上げた際に、像の移動を最小限にするように偏向系を最適化する。対物レンズ値に対する印加磁場強度を測定する。デフォーカス量を磁場印加中で同程度とするために、対物レンズと対物ミニレンズを組みレンズとして使用する。構築した光学系を用いて磁性体の磁場応答を観察することを実施する。以上の観察を通して、結晶粒の形態と磁壁の分布の相関を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、解析および計算を必要とする研究を実施した割合が多かったため消耗品および物品費の使用を抑えることができた。次年度の使用計画では、透過電子顕微鏡観察の比重が多くなるため、装置使用料および透過電子顕微鏡に関する物品に予算を割り当てる予定である。
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