研究実績の概要 |
ホイスラー合金はX2YZの組成式で表される典型的な金属間化合物である。X, Y, Zの各サイトにはさまざまな元素を配置することが可能であり、膨大な数の元素の組み合わせが存在している。2022年度は主にCo2(Mn,Fe)Si薄膜の電子構造に注目して研究を進めた。 Co基ホイスラー合金は高スピン偏極かつ高キュリー温度という応用上極めて重要な特性を併せ持つ場合が多い。特に、Co2MnSiはフェルミ準位におけるスピン偏極率が100%となるハーフメタル材料の代表的な候補物質である。一方、MnをFeに置き換えたCo2FeSiは、ハーフメタル電子構造だけではなくトポロジカルに非自明なバンド構造に起因する大きなベリー曲率や巨大異常ホール・ネルンスト効果の発現が理論的に予測されており、最近注目を集めている。 Co2FeSiの電子構造計算には経験的に3-5eV程度のオンサイトクーロン相互作用を取り入れている場合が多い。しかしながら、実験的に相互作用の大きさが評価されていないため、ハーフメタル電子構造やトポロジカルに非自明なバンド分散が実際の系で形成されているかは未解明のままであった。そこで、Co2MnSi, Co2(Mn,Fe)Si, Co2FeSi薄膜に対してバルク敏感な軟X線共鳴光電子分光を行い、価電子帯における部分状態密度の観測および第一原理計算との比較を試みた。その結果、これらの系におけるMnおよびFe-3d部分状態密度はオンサイトクーロン相互作用をほとんど取り入れていない第一原理計算によって再現できることが明らかとなり、Co2FeSiがハーフメタル材料ではないことを示唆する結果が得られた(論文執筆中)。 また、研究代表者がこれまで行なってきたCo基ホイスラー合金の電子構造に関する研究成果を解説記事としてまとめた(固体物理に掲載)。
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