研究課題
本研究では、転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収分光を用いて、電気二重層トランジスタ動作下でのキャリア蓄積領域の軟X線吸収分光を達成する。これにより、強相関Ni酸化物をチャネル層とし、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタ構造における、キャリアドープによる金属絶縁体転移の変調メカニズムを電子状態の観点から明らかにすることを目的とする。2021年度は、チャネル層とする薄膜そのものの転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収スペクトルの取得を試みた。具体的には、LaAlO3蛍光基板上にNdNiO3薄膜を作製し、転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収分光測定を行った。しかしながら、基板中のLaイオンの影響で目的のNiの吸収スペクトルを明瞭に得ることができなかった。そのため2022年度は、蛍光基板をLaイオンを含有しないものに選定し直し、その基板上で作製可能なNi酸化物であるSmNiO3薄膜を作製して転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収スペクトルの取得を試みた。その結果、基板の影響を抑えたNiの吸収スペクトルを得ることに成功し、温度依存の金属絶縁体転移に伴うNi吸収スペクトルの変化を観測できた。さらに、電気二重層トランジスタ構造に用いるイオン液体について検討を行い、イオン液体の下層の転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収スペクトルが取得可能なイオン液体の種類と塗布方法を決定した。来年度は、実際にイオン液体を用いた電気二重層トランジスタ構造を作製し、デバイス動作下でのスペクトル取得を試みる。
2: おおむね順調に進展している
初年度にLaAlO3蛍光基板上にNdNiO3薄膜を作製し、転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収分光測定を行った。その結果、基板のLaイオンによる蛍光発光の影響が予想以上に大きく、評価したいNdNiO3薄膜中のNiイオンの吸収スペクトルがこれに埋もれてしまうことが明らかになった。そのため、この構造では目的を達成できないと判断し、Laイオンを含まない別の蛍光基板の探索を行って今後はYAlO3基板上にデバイス作製することに決定した。今年度は、YAlO3基板上に作製することができるNi酸化物としてSmNiO3を選択し、薄膜作製を行った。材料の変更により金属絶縁体転移温度が室温以上に上昇したため、冷却用クライオスタットの改造を行って、転換可視蛍光収量法による透過型軟X線吸収分光を用いて、温度依存の金属絶縁体転移に伴うNiイオンの吸収スペクトルの変化を観測することに成功した。さらに、電気二重層トランジスタ構造に使用するイオン液体選定を行った。酸化物薄膜上に複数種のイオン液体を塗布し、酸化物薄膜の転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収分光測定を行うことで、使用するイオン液体の種類と塗布方法を決定した。
来年度は、今年度決定したYAlO3基板上にSmNiO3薄膜チャネル層の構造を作製し、金属電極をパターニングし、選定したイオン液体を塗布することで、電気二重層トランジスタ構造を作製する。作製した電気二重層トランジスタにゲート電圧を印加し、キャリアドープによるNi酸化物の金属絶縁体転移温度の変調を確認する。オペランド測定を行うために、X線吸収分光測定用のクライオスタットに対して、電圧印加の機構と電圧印加可能な試料ホルダーの作製を行う。これらを用いて、転換可視蛍光収量法を用いた透過型軟X線吸収分光による、電気二重層トランジスタ動作下でのキャリア蓄積領域の軟X線吸収分光を達成する。これにより、強相関Ni酸化物をチャネル層とし、イオン液体を用いた電気二重層トランジスタ構造における、キャリアドープによる金属絶縁体転移の変調メカニズムを電子状態の観点から明らかにする。
今年度は新型コロナウイルスの影響で成果発表が基本的にオンラインとなり、さらにデバイス構造作製のための出張が叶わず、旅費が発生しなかった。来年度は、オンサイトでの成果発表 (特に国際学会) とデバイス作製のための出張を予定している。さらに、オペランド測定のための装置改造とホルダー作製を予定している。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (17件) (うち査読あり 17件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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