研究課題/領域番号 |
21K14544
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
嶋 紘平 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40805173)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ZnO / Polariton laser |
研究実績の概要 |
初年度には下記の2つの進展があった。
①誘電体ミラーを用いるZnO微小共振器の作製および光励起による共振器ポラリトンの確認:プラズマダメージレスな反応性ヘリコン波励起プラズマスパッタ(R-HWPS)法により堆積された誘電体分布ブラッグ反射鏡(DBR)と、化学機械研磨により薄膜化された水熱合成ZnO単結晶を組み合わせ、ウエハスケール(10ミリ角)のZnO微小共振器(2λ)を作製した。ZnO活性層のバンド端発光の室温フォトルミネッセンス(PL)寿命は数百ピコ秒と長く、励起子寿命を制限する非輻射再結合中心を十分減らすことができた。1 mm径白色ビームの透過率スペクトルから計測された共振器のQ値は700程度と低くなく、従来よりDBR反射特性の面内均一性が優れる共振器を作製できた。室温における角度分解フォトルミネッセンス測定の結果、発光エネルギーが角度(波数)依存性を示し、共振器ポラリトンの下枝のエネルギー分散の計算値と概ね一致した。したがって、ZnO微小共振器において室温で共振器ポラリトンが形成されたと考えられる。さらに、角度分解反射測定の結果、共振器ポラリトンの上枝・下枝のエネルギー分散を一部の角度において測定できた。不完全ながらも測定されたエネルギー分散から推定されたラビ分裂量は既報告値を上回る可能性が示唆された。
②p型透明導電性NiO薄膜のR-HWPS堆積:電流注入を行うために、R-HWPS法によるp型透明導電性NiO薄膜の堆積条件を探索した。ZnOのバンド端発光に対して透明かつ低抵抗なNiO薄膜を得るための堆積条件を確立した。試作した電流注入型ポラリトンレーザ構造の電流-電圧特性にはダイオードのオンオフを示す整流特性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光励起型のZnO微小共振器を作製し室温で共振器ポラリトンの分散を確認したこと、p型透明導電NiO薄膜の堆積条件を確立したこと、さらにp型NiO/n型ZnOの電流-電圧特性から整流特性を確認したことから、電流注入型ZnOポラリトンレーザ実証に向けて要素技術が確立されたと考えられる。特に、従来の報告例よりも前進が見られた点として、(1)直径1 mmと比較的広い領域においてQ値が700程度の微小共振器を作製できたことから、誘電体DBRの反射率および反射帯域等の面内均一性が従来より優れる点、(2)直径80 umと比較的広い領域において、角度分解PL特性から共振器ポラリトンの存在が確認されたことから、ZnO活性層の膜厚や欠陥濃度の面内均一性が従来より優れる点、等が挙げられる。さらに、角度分解反射測定の結果、共振器ポラリトンの上枝・下枝のエネルギー分散を一部の角度において測定でき、不完全ながらも測定されたエネルギー分散から推定されたラビ分裂量は既報告値を上回る可能性が示唆された。従って、光励起による共振器ポラリトンのボーズ・アインシュタイン凝縮およびコヒーレント光発振、さらに電流注入によるそれらの実証に向けて準備が整っており、デバイス特性のチューニングを検討できるフェーズに達した。
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今後の研究の推進方策 |
今後取り組むべき点は下記の通りである。 ①光励起型のZnO微小共振器において、角度分解反射測定により上枝および下枝ポラリトンのエネルギー分散の計測を行う。共振器ポラリトンの安定性指標であるラビ分裂量は、これまで報告されている実験値の最大値が130 meVであるため、本研究では理論値の191 meVに近いラビ分裂量を計測できるよう微小共振器のチューニングを行う。また、光励起密度を高めた場合の、共振器ポラリトンのボーズ・アインシュタイン凝縮とコヒーレント光発振を目指す。デバイス表面にDBRミラーが存在するため光励起により強励起することが難しい場合は、電子線などを使って強励起を試みる。 ②電流注入型のZnO微小共振器において、p型NiO層をチューニングしエレクトロルミネッセンスおよび共振器ポラリトン観測を目指す。p型NiO層の導電性と透明性はそれぞれZnO活性層への正孔の注入効率と発光の取り出し効率に関わるが、トレードオフの関係であるため製膜条件のチューニングを慎重に行う。最終的に、電流注入によるZnOポラリトンレーザのコヒーレント光発振を世界で初めて達成したい。
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