研究課題/領域番号 |
21K14546
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
陳 正昊 京都大学, 工学研究科, 助教 (20889109)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 耐酸化性 / 相平衡 / 高温強度 / 単結晶 / γ/γ'二相超合金 |
研究実績の概要 |
Fe-Ni-Geプロトタイプ3元系合金に、実用に必要と考えられる合金元素(Cr, Al, Siなど)を添加し,相平衡関係を調査するとともに、単結晶化の可否に加え、その力学特性と耐酸化性の調査を行った. Al, SiなどはGeを置換する形で固溶させることができるが,固溶量は小さく,2~4%のオーダーである.特に,Alはこれ以上添加するとγ’相の相安定性を阻害し,D03相の析出を引き起こす.一方,Crは10%程度固溶させることができるが,Cr添加量の増加とともにγ’相の相分率は低下してしまう. Crは耐酸化性向上に非常に有効でCr添加量の増加とともに耐酸化性は向上する.しかし,この耐酸化性の向上は添加量の少ないときに劇的に生じ,Cr添加量増加に伴うγ’相の相分率の低下を考えれば、2~4%のオーダーの添加で十分である.Ge置換によるSi添加は耐酸化性を向上させる効果があり,耐酸化性に必要なCr添加をより少量に抑えることが出来る.一方,Al添加は合金の耐酸化性を劣化させる傾向が見られる. 高温強度は、Al, Siの少量添加では大きな影響はないが、Cr添加量増加に伴いγ’相の相分率が低下するため減少する。耐酸化性と高温強度両立の観点からは、1Si+2Cr(at.%)オーダーの複合添加がもっとも望ましい.上記の合金の内,γ-γ’2相組織が形成される組成では,ブリッジマン法による単結晶化が可能であった.多くのFCC基合金と同様に<001>を優先成長方向とする傾向が高い.これらの合金は室温で50%以上の伸びを示し,靭性(延性)にも富んでいる.750℃でγ’相が体積率で50%以上になるよう組成調整した合金では700℃でも500MPaを越える非常に高い高温圧縮強度を示し,γ’相の相安定性の高さとともに高い高温強度を示すことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は主に多結晶材による相平衡,耐酸化性及び強度の研究であり,いずれも実験・研究方法は高度に確立されている.そのため,特に滞ることなく,概ね予想通り進捗している. Cr添加の耐酸化性向上の効果は先行研究により既に判明されており,本研究は最適な添加量を探索することを目的とした.その結果,Cr添加の耐酸化性向上の効果は,添加量の増加とともに減少することが分かり,大気/800℃の酸化条件では4 at.%以上添加では耐酸化性はほぼ変化したいことが判明された.Cr添加は合金の相平衡を影響し,γ’体積分率を減少させてしまうため,少量のCr添加で合金の耐酸化性を飽和させることが望ましい結果である.一方,Cr添加に起因するγ’体積分率の減少は,ある程度Ge添加量を調整する方法で補うことができるが,Cr無添加材と同水準のγ’体積分率に戻すことが未だに出来ず,より有効なγ’安定性向上の合金元素の添加が求められる. Al添加は予想に反して,望まないD03相の析出を促進する上,耐酸化性を著しく低下させ,合金実用化に有利に働かないと予測している.そのため,現時点ではAlを合金元素の候補から除外する. Si添加は高温強度への影響は現時点で確認されていないが,耐酸化性を向上させ,高価なGe元素をほぼ原子比1:1で置換することができ,コスト削減にも有利に働く.特に,耐酸化性の面では,1Si2Cr添加材は4Cr添加量と同水準の耐酸化性が得られており,高温強度に不利なCrの添加量を削減する.Siの固溶限は高くないが,本研究のFe-Ge-Ni合金系において,非常に優秀な添加元素と考えられている.
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今後の研究の推進方策 |
いままでに設計した合金のγ’強化相体積分率は,もっとも高いFe-Ge-Ni三元系組成においては,目標使用温度700℃では50v.v.%に留まり,優れるクリープ特性の出現が必要とされるγ’体積分率70 v.v.%にはまだ届いていない.前年度で研究した添加元素(Cr, Al, Si)のいずれもγ’体積分率の向上には寄与せず,γ’体積分率および高温強度を向上させる合金化元素を探索するのが今後の課題の一つである. 本年度は, L12-(Fe,Ni)3Ge(γ’)相の相安定性をさらに高め、高温強度を向上させるために,Ti, Ta, Nb, Hf, V, W, Mo等の元素添加の相平衡及び力学特性に与える影響を調査する.上記の合金化元素候補は,Ni基もしくはCo超合金で高温強度の向上に有効とされており,本研究のFe-Ge-Niにも有効の可能性が高いと考えられている. それと同時に,新しい合金の組織制御指針を探索する.いままでは均一なγ/γ’二相組織のみに着目したが,一次γ’粗大粒の存在が許容できるのであれば,より高いγ’体積分率の組織が得られる.このような組織を持つ合金の設計方法と高温強度を本年度の研究で探索する. プロトタイプ三元系合金を含め,700℃までに強度が低下しない組成に対して,ブリッジマン法で単結晶材を作製し,大気中でのクリープ破断実験を行う予定である.多結晶材では750℃で降伏応力500MPaの組成も確認されたが,単結晶のクリープ特性に関する知見は皆無であり,クリープ強度のデーターベースを構築するとともに,クリープ変形機構を解析し,次段階合金化の指針とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度で実行予定される合金化によるγ’相安定性向上部分の研究では,使用する合金化元素Ta, Hfなどは少量と予想されるため,在庫で賄えると予想している.一方,合金の作製に当たり,Geは作製合金の質量の約四分の一を占めており,相当の使用量が予想される.そのため,高純度金属原料Geを,2500円/g×300g=75万円と厚く計上する. 単結晶のクリープ特性を解析するため,クリープ破断試験は一つの候補組成で高温低応力と中温高応力の二つの条件で実施する予定であり,Fe-Ge-Ni三元系組成,耐酸化性向上元素Cr, Si添加した組成とW, Moなどγ’相安定性向上元素を添加した組成の三組成で行う.クリープ試験の外注費用は15万円×6回=90万円と計上する. 研究成果の発表に,論文の投稿代を30万円,国内学会の旅費を5万円と計上する.
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