研究課題
前年度までで,フェムト秒ノイズ相関分光法の実験を高精度化することに成功した。これによりマグノンの揺らぎ相関ダイナミクスを高いS/N比で測定できるようになった。希土類オルソフェライトSm0.7Er0.3FeO3のスピン再配列相転移温度近傍において測定された揺らぎダイナミクスを計算と比較したところ,二重井戸型の磁気異方性ポテンシャル中において,ランダムテレグラフノイズ(Random Telegraph Noise, RTN)という確率現象が,数十ps程度というこれまでにない高速な時間スケールで生じていることが示された。前年度はこれらの結果を論文投稿し,Nature Communicationsに掲載された。同時に,これまで構築したフェムト秒ノイズ相関分光法の信号処理に関する技術的な要点をまとめた論文を別途投稿し,こちらは現在査読中である。さらに,発見されたRTNに関して知見を深めるべく,これまで系統的に変化させられていた試料温度やスポットサイズ以外のパラメータ依存性を測定できるよう,実験系の拡張に着手した。また,本手法による次なる計測対象としてSm0.7Er0.3FeO3以外の物質に関しても検討を始めた。
1: 当初の計画以上に進展している
固体中マグノンの揺らぎの実時間計測に関して技術的な原理実証を行うのが本研究の当初の目的だったが,それは既に達成され,さらにオルソフェライト中のピコ秒RTNという当初予想されなかった新現象を発見するに至った。対外的な発表も進めており,Nature Communications誌への論文掲載に加え,複数の国際会議から招待講演を依頼されるなど,超高速光物性分野において国際的に高い評価を得つつある。これらより,当初の予定を大幅に超えて進展していると考えている。
引き続き,オルソフェライトのRTNに関して詳細な機構の調査を進めていく。また,異なる物質系での熱揺らぎダイナミクス測定に着手する。同時に,現在高速ロックインアンプで行ってきた揺らぎ抽出の信号処理方式の最適化を試み,計測速度のさらなる改善や,信号処理の簡便化に関して検討を行なう。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 6件) 備考 (1件)
Nature Physics
巻: - ページ: 1-6
10.1038/s41567-024-02386-3
Nature Communications
巻: 14 ページ: 7651
10.1038/s41467-023-43318-8
Proceedings of the 2023 IEEE International Magnetic Conference
巻: - ページ: -
10.1109/INTERMAGShortPapers58606.2023.10228315
https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=20711