研究課題/領域番号 |
21K14555
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
工藤 哲弘 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20768270)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光マニピュレーション / 中赤外レーザー / 分子振動共鳴 / 光ピンセット / 光熱トラップ / 光トラップ / 光輸送 / 分子選別 |
研究実績の概要 |
初年度に超短パルスレーザーにより微粒子に働く輻射力の理論計算を行った。従来までの一般的な理論では時間変動項が無視されてきた。この時間変動項は、電場波形の一週期よりも十分長い時間で時間平均することで、殆どゼロに値が近づく。連続光などを取り扱う上では良い近似であったが、サブサイクル超短パルスなどのように、電場波形が一週期程度のものであると無視できないので新しい付加的な輻射力が発生すると予想された。しかし研究成果として、本アイデアは、電場の位相項のみを考えたものであり、包絡線の電場まで考慮にいれることで、時間変動項の寄与は非常に小さいものであることが確認された。そのため、研究計画書のバックアッププランに示した通りに軌道修正を行った。 連続光ではあるが中赤外レーザーを用いた研究を開始しており、当初全く予期していなかった新しい現象を2つ発見している。1つは、2μm及び3μmのファイバーレーザーを用いた光熱トラップの実験である。光熱トラップとは、温度勾配を利用して微小物質を捕捉する技術であるが、最近ではプラズモン増強場を利用して、光のエネルギーを間接的に熱に変える方法が取られてきた。本研究では、水分子の振動準位を直接励振した光熱トラップを提案している。特に水は3μm帯で最も大きな吸収を持ち、現在その実験成果が現れ始めている。本手法により、現在主流の技術と同程度の効率が得られれば、プラズモンナノ構造体を作製することなく、レーザーを照射するだけで同じ効果が得られると期待される。 2つ目に、操作対象の分子振動準位を中赤外レーザーで励振することで、その物質だけを選択的に選別する可能性が見えてきた。具体的には、ガラスとポリマーの微粒子の混合溶液に、ガラスだけを励振するレーザーを照射し、それだけを強く光輸送できることを実験的に示すことに成功した。本成果はレーザーによる物質選別に利用できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初研究計画書に記載した「時間変動項による新たな輻射力の寄与」であるが、一年目の理論計算を行うことで、想定していた予想とは異なり、本寄与による大きな期待が見込めないとわかった。 一方で一年目において、連続光ではあるが中赤外レーザーを用いた国内外で類を見ない新しい実験を始めている。超短パルスで実験を行う前に、簡易な連続光で実験を立ち上げた。その結果、当初予定していなかった新しい現象を2つも発見することが出来た。これらは研究計画書の末尾に記載されているバックアッププランと関係しており、主軸を外したものの予想外の大きな成果が得られたため、「おおむね順調に進展している」を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
一年目の経緯をもとに、二年目は連続光を用いた中赤外光熱トラップの実験及び、分子振動励起に伴う中赤外分子選別光マニピュレーションの研究を遂行する。光熱トラップ実験においては、3μm帯のエルビウム添加フッ化物ファイバーレーザーを用いて水分子を直接励振した光熱トラップを行う。また、分子選別光マニピュレーションは、波長可変の量子カスケードレーザーを用いて、シリカ微粒子やポリマー微粒子などの選別を行う予定である。 また、超短パルスレーザーは非線形現象が容易に起こると考えられるため、近赤外領域ではあるが、フェムト秒超短パルスレーザーを用いて、非線形共鳴光トラップの実験も開始する予定である。これらの連続光による実験的知見、及び近赤外における超短パルスレーザートラップの成果が得られた上で、サブサイクルなどの中赤外超短パルスレーザーを用いた実験に指針を合わせる予定である。
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