研究課題/領域番号 |
21K14559
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岡 弘 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (10738967)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 第4世代原子炉 / SMR / 酸化物分散強化 / ODS / メカニカルアロイング / 照射損傷 / 点欠陥 / シンクサイト |
研究実績の概要 |
本研究のこれまでの取り組みにより、メカニカルアロイング法及び放電プラズマ焼結法を用いて、直径10~150 nmの微細な粒子が分散した粒子分散型ハイエントロピー合金(ODS-HEA)を創製可能であることが明らかとなった。本ODS-HEAは、出発原料粉末としてCr,Fe,Mn,Niの単体元素粉末を使用可能であり、メカニカルアロイングによってFCC単相合金を形成する。その際、エタ―ノール等の有機化合物系潤滑剤を使用せずに合金化することに成功しており、有機化合物に由来する不純物混入を防止している。一方、引張強度特性を調査した結果、単体元素粉末から作製した試料よりもガスアトマイズ合金粉末から作製した試料の方が高強度であり、組織観察の結果、分散粒子のサイズ低下及び分散状態の均質性の向上が確認された。よって、ガスアトマイズ合金粉末を出発原料として本合金を作製することが現時点での最適な作製方法と言える。 体積膨張(スエリング)抵抗性の評価のため、ODS-HEAの先行試作材に対するFe+He+Hトリプルイオン照射試験を行い、ナノ粒子を有しないプレーンなHEAと比較した結果、キャビティの平均サイズの減少及びスエリングの大幅な低下が確認され、ODS-HEAの優位性が示された。一方で、試作材中には粗大CrMn酸化物が形成し、その近傍には粗大キャビティが観察されたことから、さらなるスエリング性向上のためには粗大CrMn酸化物の抑制が必要である。 また、超高圧電子顕微鏡を使用した電子線照射その場観察試験を実施し、ODS-HEA中のナノ粒子/母相界面の影響を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本合金(ODS-HEA)は、ナノサイズ粒子を材料内部に微細かつ高密度に分散し、ナノ粒子/母相の界面が照射導入点欠陥の消滅場所となることで、耐スエリング性を向上させることを意図している。 スエリング抵抗性を定量的に評価するため、試作材に対するFe+He+Hトリプルイオン照射試験を行い、照射後組織の微細組織を精査した結果、ODS-HEAのスエリングは316Lに比べて大きく低下した。また、ODS-HEAとナノ粒子を有しないHEAを比較すると、キャビティの平均サイズは小さくなり、スエリングも大幅に減少した。一方、試作材中には粗大CrMn酸化物が形成し、その近傍には粗大キャビティが観察されたことから、さらなるスエリング性向上のためには粗大CrMn酸化物の抑制が必要であることを明らかにしている。 ODS-HEA中のナノ粒子/母相の界面が損傷組織発達に及ぼす影響を精査するため、北海道大学の超高圧電子顕微鏡を使用した500 ℃における電子線照射その場観察試験を実施した。ODS-HEAは比較材であるODS-316Lに比べキャビティ密度は減少する結果となり、HEA母相の格子ひずみにより点欠陥の移動が抑制され、キャビティの核形成が抑制されたことを示唆している。なお、電子線照射試験に用いる超高圧電子顕微鏡の試料ホルダのヒータ部が故障し、加熱照射試験が一時的に実施できなかったため、他の温度条件による照射試験は次年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
超高圧電子顕微鏡を用いた電子線照射実験による損傷組織発達挙動のその場観察を、引き続き実施していく。各種先進炉の運転温度条件における挙動把握のため、500 ℃での組織発達挙動の精査に加え300及び400℃での照射を行い、ナノ粒子/母相の界面微細構造が照射欠陥形成に及ぼす影響、及び界面における核変換ガス元素(ヘリウム)と点欠陥の相互作用を精査する。また、分散状態が最適化された第2期試作材に対するイオン照射及び組織解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子線照射試験に用いる超高圧電子顕微鏡の試料ホルダのヒータ部が故障し、加熱照射試験が一時的に実施できなかったため、今年度及び次年度にまたがって実験を実施する計画に変更した。繰越分は、電子線照射試験装置利用料に充てる予定である。
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