研究課題/領域番号 |
21K14560
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宍戸 博紀 東北大学, 工学研究科, 助教 (90827792)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 密度汎関数理論 / 分子動力学法 / 機械学習 / 酸化還元電位 / 熱重量分析 |
研究実績の概要 |
溶融塩溶媒における核分裂生成物の安定性を評価するために、フッ化物溶融塩中での添加元素の酸化還元電位を数値解析により評価できるかを試みた。長寿命核分裂生成物元素の様々な価数に対して、これらをフッ化物塩溶媒に添加した際の全エネルギーを密度汎関数理論計算(DFT)に基づく分子動力学計算より計算した。得られた全エネルギーとフッ素ガスの自由エネルギーの値から差分を取ることで、標準フッ素電極を基準とする各元素の酸化還元電位を予測できることが確認された。別な系ではあるが報告例のある酸化還元電位の測定結果と、本手法により得られた数値解析結果は対応することが確認された。また、これら数値解析結果の妥当性を評価するために、熱重量分析による評価の準備を進めている。既に、単元系溶融塩での測定は開始しており、実験結果の妥当性も確認されている。 核分裂生成物の化合物を添加した溶融塩の諸物性予測手法の確立に向けた検討を進めた。昨年度より、密度汎関数理論に基づく電子状態計算の結果を教師データとし、それに基づいた分子動力学計算を行う機械学習分子動力学法の適用可能性を評価している。LiやBe等の軽い元素から構成される溶融塩に対しては、機械学習による密度汎関数理論計算結果の再現精度は高く、溶融塩の物性値の計算結果も妥当な値を示すことが確認されている。一方で、Cs等の比較的重い元素が含まれる系においては、機械学習の学習精度が低下し、電子状態計算による結果を再現しない傾向がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶融塩溶媒に添加した核分裂生成物の安定性の評価に向けた、溶質元素の酸化還元電位評価については順調に進んでいる。大きな計算コストを必要とせずにある程度の精度で酸化還元電位を評価することができており、これらの値から溶質元素の安定性を概ね予測できると思われる。 核分裂生成物を添加した溶融塩の物性評価手法の確については概ね順調に進んでいる。系によっては機械学習の学習精度が低下する傾向が見られている。この原因を特定し解決方法を明らかにしなければならないが、それが達成されれば、その後の物性評価は問題なく実施できる。
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今後の研究の推進方策 |
溶融塩溶媒に添加した核分裂生成物の安定性の評価に関して、酸化還元電位の数値解析による手法が概ね確立されることから、これを利用した様々な核分裂生成物に対しての計算を進め、溶融塩溶媒中における安定性の傾向を評価する予定である。続いて、熱重量分析により溶質元素の溶融塩溶媒中における化学反応の有無を評価し、以て、数値解析による酸化還元電位評価の妥当性を確認する。 溶融塩溶媒に添加した核分裂生成物の安定性の評価に関しては、重い元素に対する機械学習分子動力学法の適用における問題の分析および解決を進めるとともに、より多数の元素や化合形態を含む複雑な系に対しての物性評価を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付申請時に計上した電気化学測定装置(ポテンショスタット)の購入を2021年度に取り止め、2022年度は代替の分析手法の検討を進めた結果、熱重量分析が適当であると判断した。当該装置は本学の共同利用設備としての提供があるために購入の必要がなく、代わりに設備利用費の支払いが必要となる。当該装置を購入するほどの負担が生じなくなったため、試料の十分な脱湿処理のためのフッ化物塩にも対応した電気炉を購入している。2023年度は、熱重量分析装置の設備利用費に当該助成金を充てる。
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