研究課題/領域番号 |
21K14579
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
北村 真奈美 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (40795960)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地熱 / 花崗岩 / 誘発地震 / 透水性 |
研究実績の概要 |
近年,地熱発電において天然の熱水や蒸気が乏しい場合に,水を送り込んで蒸気や熱水を得る技術を活用する高温岩体地熱発電(EGS: Enhanced Geothermal System)が注目されている。一方で,EGSにおける水の注入に伴い発生する誘発地震が注視されている。これまでに,既存断層へ流体が流れ込むことで間隙水圧が上昇して断層すべり運動が促進されて地震が誘発されることや,総注水流量が増えるにつれて地震の規模(マグニチュード)が増加する傾向があることもわかってきた(例えばMcGarr, 2014)。しかし,これまでに誘発地震発生に関連して掘削井と既存断層の距離という地下構造に着目した研究はおこなわれておらず,掘削井と既存断層がどの程度近いことが誘発地震の発生に有意であるのかは明らかにされていない。 そこで本研究は,産総研設置の油圧式三軸圧縮変形装置を用いて,比較的浸透性が高い母岩について,掘削井を模擬したボアホールが既存断層に到達しているケースとボアホールが既存断層から十分に離れているケースを想定して注水試験を実施した。その結果,ボアホールが既存断層への到達の有無にかかわらず,いずれのケースでも注水速度が速い場合には急速な応力降下を示すことが明らかになった。一方で,掘削井が既存断層から十分に離れている際にゆっくりとした速度で注水した場合は,ゆっくりと応力が降下することが明らかになった。このことより,誘発地震の発生には掘削井と既存断層との距離に加えて,母岩の浸透性と注水速度が強く影響を及ぼす可能性が出てきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,極端なケースとして掘削井を模擬したボアホールが断層面へ到達している形状とボアホールのないプレカットのみの形状の2種類の試料で注水実験を実施した。その結果,掘削井と既存断層との距離と応力降下量・応力降下速度の関係について考察している。産前産後休暇及び育児休業取得による本研究計画の一時中断のため実験数については当初予定よりも少なく終わったが,これまでに実施した実験結果から,これら2種類の試料を用いた実験から掘削井と既存断層との距離と物性値について考察できることがわかったため概ね順調に進展しているという状況といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本研究課題を推進すべく,引き続き注水試験を実施する。今年度実施した実験結果より,誘発地震の発生には掘削井と既存断層との距離に加えて,母岩の浸透性と注水速度が強く影響を及ぼす可能性が出てきた。そのため今後は母岩の浸透性が異なる試料を用意し,母岩の透水性と誘発地震の規模や応力降下にかかる時間を調べて,どのような環境で誘発地震が起きやすいかを検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前産後休暇及び育児休業取得による本研究計画の一時中断のため,今年度使用予定であった研究費の一部を次年度に使用し研究を進めることとした。研究遂行に向けて既に研究は再開しており,次年度以降の予定を再度組み直している。次年度は母岩の浸透性に着目した注水試験を実施する予定であり,その準備も進めている。予算は主に実験に必要な消耗品の購入を中心とした実験関連経費として使用予定である。
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