研究課題/領域番号 |
21K14587
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
春田 直毅 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 特定助教 (90784009)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 縮退 / 力学的対称性 / 数理化学 / 密度汎関数理論 / 金属クラスター |
研究実績の概要 |
本年度は安定な多原子クラスターの系統的予測法を拡張することに成功した。旧来の球対称シェルモデルは、クラスターが仮想的に球形であると仮定し、その軌道が閉殻になる価電子数で安定と考える。しかしこの方法では、構造ごとの安定性までは議論できない。我々はこれまでに、クラスターの形状ごとの軌道の分裂やシフトに基づいて、安定クラスターを効率的に探索する対称適合軌道モデルを構築してきた。本年度はさらに、こうして予測される安定クラスターを足掛かりに、クラスター間に広がる電子共役の概念を導入することで、大きなサイズの安定クラスターを系統的に生成する新たな方法論を導入した。
また、四面体型クラスターX10, X20, X35の研究 [Nat. Commun. 9, 3758 (2018)] と同様の方法論を用いて、非四面体型クラスターX8や2次元物質をはじめとする新たなタイプの超縮退物質を見つけることにも成功しつつある。現在、これらの物質に対し、リー代数を用いた数理的アプローチを用いて、その超縮退の起源に関する検討を行っている。
さらに、こうしたクラスターの電子状態に関する基礎理論を応用展開すべく、実験グループと共同で、白金ーパラジウム合金クラスターや酸化銅クラスターの振動分光スペクトルや触媒活性の理論評価を行っている。現在、Ramanスペクトルを再現するようなモデルクラスターを構築できつつあり、今後、触媒活性との関連性についても解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、新たな安定クラスターの系統的予測法として、電子共役概念を拡張し、クラスター同士を組み合わせる手法を発見した。新しいタイプの超縮退物質の発見にも成功しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
新たに見つかった超縮退物質についての検討を進めるとともに、クラスターにおける電子共役概念を確立する。さらにそこから、力学的対称性理論の確立、超縮退物質の設計、超縮退系の選択則へと展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は理論構築が主であり、大規模計算をそれほど必要としなかったため、新たなワークステーションの購入費用が予定よりも少ないものとなった。次年度は本年度に構築した理論に基づき、多くの大規模計算を実施するため、複数台のワークステーションを購入する予定である。
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