研究実績の概要 |
安定な多原子クラスターの系統的予測法を拡張することに成功した。旧来の球対称シェルモデルは、クラスターが仮想的に球形であると仮定し、その軌道が閉殻になる価電子数で安定と考える。しかしこの方法では、構造ごとの安定性までは議論できない。我々はこれまでに、クラスターの形状ごとの軌道の分裂やシフトに基づいて、安定クラスターを効率的に探索する対称適合軌道モデルを構築してきた。本年度はさらに、こうして予測される安定クラスターを足掛かりに、クラスター間に広がる電子共役の概念を導入することで、大きなサイズの安定クラスターを系統的に生成する新たな方法論を導入した。
また、四面体型クラスターX10, X20, X35の研究 [Nat. Commun. 9, 3758 (2018)] と同様の方法論を用いて、非四面体型クラスターX8や2次元物質をはじめとする新たなタイプの超縮退物質を見つけることにも成功しつつある。現在、これらの物質に対し、リー代数を用いた数理的アプローチを用いて、その超縮退の起源に関する検討を行っている。さらに、こうしたクラスターの電子状態に関する基礎理論を応用展開すべく、実験グループと共同で、白金ーパラジウム合金クラスターや酸化銅クラスターの振動分光スペクトルや触媒活性の理論評価を行っている。
さらに、Agドープ無機ガラスにおいて、X線回折及び中性子線回折を再現するように逆Monte-Carlo法から推定された構造に対して、時間依存密度汎関数計算を行い、発光に関与するAg中心クラスターを特定した。このクラスターは吸収スペクトルの吸収波長及び波形とともに、発光波長を再現するものである。この発光に対応する吸収ピークは、Ag(III)のd軌道が強く非局在化した分子軌道間で起こる電子遷移であることが分かった。
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